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第四十八話:見えざる敵の正体

「敵の正体は、ゴーレム……それも、鋼鉄ゴーレムと同じ材質で作られた、特殊な個体」


工房に戻った俺たちは、持ち帰った金属片を分析しながら、改めて敵の輪郭を捉え直していた。


「地下水路の隠し通路を使い、誰にも気づかれずに目標に近づき、暗殺を実行。そして、死体は腐食スライムの巣に遺棄して証拠を隠滅する。……なるほど、これなら騎士団の精鋭でも、不意を突かれればひとたまりもない」


「でも、誰がそんなものを?」とリリアが疑問を口にした。「鋼鉄ゴーレム級の機体となれば、並の魔術師や職人に作れるものではありません。国家レベルの技術と、莫大な資金が必要です」


その通りだ。

始まりの街の子爵が、俺たちを私兵にしようとしたように、この王都にも、俺たちの力を欲する貴族はいるだろう。だが、これはそのレベルを遥かに超えている。自前で、それも秘密裏に、鋼鉄ゴーレム級の戦力を複数用意できる組織。そんなものが、この国のどこに存在するのか。


「……一つ、気になることがある」


俺は、ずっと頭の片隅にあった違和感を口にした。

「あの鋼鉄ゴーレムと、今回の金属片。材質は同じだが、バルガン、お前の目から見て、何か違いは感じるか?」


俺の問いに、バルガンはルーペを片手に、金属片を食い入るように見つめ始めた。彼はドワーフ特有の鋭い視線で、その表面の微細な加工痕や、魔力の流れを丹念に調べていく。


しばらくして、彼は顔を上げた。その表情は、驚愕と、そしてある種の確信に満ちていた。


「……ああ、違いがある。それも、とんでもねえ違いがな」

「なんだ?」

「俺がグレンデル採石場で見たゴーレムは、確かに傑作だった。だが、作りは荒々しく、力任せな部分があった。いかにも、古代の遺物って感じの代物だ。だが、こいつは違う」


バルガンは、金属片を指先で弾いた。キィン、と澄んだ音が工房に響く。


「この金属の鍛え方、魔力の込め方……俺の知る限り、この技法を使えるのは、世界でただ一つの場所しかねえ」

「……どこだ?」

「俺の故郷――ドワーフの国だ。それも、王家に連なる、最高位の職人マスタークラフトマンの仕事だ」


ドワーフの国。

その言葉に、俺とリリアは息を呑んだ。

バルガンが「一撃の威力」にこだわるあまり、伝統から外れた異端者として扱われたという、彼の故郷。その国の最高技術が、なぜ、王都の連続暗殺事件に関わっているのか。


「……まさか、ドワーフの国そのものが、この国の転覆を狙って……?」

「いや、それはない」とバルガンは即座に否定した。「あいつらは、頑固で融通の利かねえ連中だが、他国を侵略するような真似はしねえ。だが、この技術が『盗まれた』か、あるいは、国を抜けた『裏切り者』がいるとしたら……話は別だ」


見えざる敵の輪郭が、さらに濃くなる。

それは、ドワーフの国の最高技術を操る、何者か。


そして、俺たちの脳裏に、一つの最悪の可能性が浮かび上がった。

もし、敵がバルガンと同じ技術を持っているとしたら。

俺たちの『破砕の震撃杭シャッターパイル』の構造や弱点を、敵もまた、熟知しているのではないか?


俺たちは、自分たちと全く同じ、あるいはそれ以上の力を持つ、鏡写しのような敵と、戦わなければならないのかもしれない。

工房の窓から差し込む月明かりが、俺たちの顔を青白く照らし出していた。

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