第四十六話:王国の闇
ギルドマスターの問いかけに、執務室は静まり返っていた。
ただの冒険者に戻るか、それとも、この国の闇に挑むか。
その選択は、もはや俺一人のものではなかった。隣に立つリリア、そして工房で待つバルガン。『ブレイカーズ』として、どう進むべきか。
だが、迷いはなかった。
俺は、ギルドマスターの目を真っ直ぐに見据え、静かに、しかしはっきりと告げた。
「……逃げるのは、性に合わない。俺たちが関わってしまった事件なら、最後まで見届けさせてもらいたい」
その言葉は、俺個人の意志であると同時に、仲間たちの想いを代弁するものだと確信していた。リリアも、俺の隣で強く頷いている。
俺たちの答えを聞いたギルドマスターは、フッと、まるで試すような笑みを浮かべた。
「……そう言うと思った。ならば、話そう。君たちが足を踏み入れた、この王国の闇について」
彼は、重々しく語り始めた。
ここ数ヶ月、王都では、騎士団や王宮の要人が、不可解な状況で命を落とす事件が相次いでいるという。ある者は訓練中の事故で、ある者は原因不明の病で。そして何人かは、今回俺たちが見つけた騎士のように、任務中に消息を絶ち、無残な亡骸となって発見されている。
「公式には、全て事故か、あるいは魔物の仕業として処理されている。だが、我々は背後に、何者かの明確な『意志』を感じている。王国の秩序を、内側から破壊しようとする、見えざる敵の存在をな」
「その騎士は、何かを掴んでいた、と?」
「おそらくは。彼は、騎士団の中でも特に優秀な密偵だった。彼が命を賭して持ち帰ろうとしたこの密書には、その敵の尻尾を掴む、重要な手がかりが記されているに違いない」
ギルドマスターは、伝達ケースを厳重な箱に収めると、部下に命じて騎士団の本部へと運ばせた。
「この件は、本来ギルドが表立って介入できる問題ではない。だが、これ以上、王国の屋台骨を揺るがす事態を見過ごすわけにもいかん。――『ブレイカーズ』、君たちに、非公式の特命依頼を出す」
「特命依頼……」
「そうだ。騎士団も、見えざる敵に内通者がいる可能性があり、迂闊には動けん。だが、君たちのような、しがらみのない実力者ならば、奴らの警戒網をくぐり抜けられるかもしれん」
彼の依頼は、こうだった。
密書を解読し、騎士団が本格的に動き出すまでの間、俺たちはギルドの冒険者として、事件の周辺を独自に調査する。そして、もし敵の尻尾を掴んだなら、俺たちのやり方で、それを叩く。
「もちろん、危険な任務だ。相手は、王国の精鋭騎士を闇から葬るほどの連中だ。断るなら、今のうちだぞ?」
その言葉は、もはや俺たちの耳には届いていなかった。
見えざる敵。王都を蝕む陰謀。
それは、これまで俺たちが戦ってきたどんな魔物よりも、手強く、そして危険な相手に違いない。
だが、俺たちの胸には、恐怖よりも先に、武者震いのような闘志が込み上げていた。
工房に戻り、この一件をバルガンに話すと、彼はニヤリと歯を見せて笑った。
「面白い! ゴーレムだの化け物鳥だの、相手にするのは飽きてきたところだ! 正体不明の悪党を、俺たちの『弾丸』で白日の下に晒してやろうじゃねえか!」
こうして、俺たち『ブレイカーズ』の新たな戦いが始まった。
それは、もはや単なる冒険ではない。
この王国の運命を左右する、影との戦いの始まりだった。




