第四十四話:地下水路の掃討戦
一体目を鮮やかに仕留めたことで、俺たちの実力を測りかねていたスライムたちが、一斉に動き出した。
天井から、水路から、壁の亀裂から、残る十数体の腐食スライムが、俺とリリアを包囲するように迫ってくる。
「リリア、下がるな! 俺に合わせろ!」
「はい!」
俺は、アイテムボックスから二本目の『氷結杭』を射出。右から迫っていた一体を凍結、粉砕する。
間髪入れず、左から迫る個体にもう一本。こちらも、同じように氷の塵と化した。
バルガンが作った鉄杭に、リリアの強力な魔法。その連携は、一体ずつ相手にするなら完璧だった。
だが、敵の数が多い。
事前にリリアが付与してくれた『氷結杭』は、もう残り一本だ。
「アルクさん、氷結杭はあと一本です!」
「分かってる! 最後のやつは、一番でかいのにぶつけるぞ!」
俺は、群れの中でも一際大きな、リーダー格と思わしきスライムに狙いを定める。
最後の一本が、その巨体を正確に貫き、見事に凍てつかせた。
しかし、まだ敵は七体残っている。
じりじりと狭まってくる包囲網。スライムたちが、一斉に酸の体液を飛ばしてきた。
「リリア!」
「大丈夫です! アルクさん、ただの鉄屑を、早く!」
俺は、リリアの言葉を信じ、アイテムボックスから何の変哲もない鉄屑を意識の中に呼び出す。
その瞬間、俺のすぐそばにいたリリアが、杖を俺の腕にそっと触れさせた。
「――凍てつけ!」
リリアの短い詠唱と共に、俺の腕を通して、アイテムボックス内の鉄屑に直接、強力な冷気が注ぎ込まれる。
そして、射出。
放たれた鉄屑は、ただの鉄屑ではなかった。リリアの魔法を纏い、即席の『氷結弾』と化していたのだ。
氷結弾は、迫っていた酸の鞭を凍らせながら直進し、スライム本体を完璧に氷の塊へと変えた。
「……すげえ……!」
「まだです!」
俺たちは、この新しい戦術に即座に対応した。
俺が狙いを定め、射出の意志を固める。そのコンマ数秒の間に、リリアが最適な魔法を付与する。
まるで、最初からそうであったかのように、俺たちの呼吸は完璧にシンクロしていた。
次々と放たれる即席の氷結弾が、残るスライムたちを一体、また一体と沈黙させていく。
それは、もはや戦闘ではなく、流れ作業のような、一方的な掃討戦だった。
最後のスライムが砕け散り、地下水路に静寂が戻る。
俺たちは、互いの顔を見合わせ、その驚くべき成果に言葉を失っていた。
「……戦闘中に、付与ができるなんてな」
「アルクさんが、完璧に狙ってくれるからです。わたしは、ただ魔法を込めることに集中できました」
リリアは、はにかみながら言った。その顔には、確かな自信が満ち溢れている。
俺たちの連携は、また一つ、新たな次元へと進化した。
討伐の証拠である核を回収しながら、俺はあることに気づいた。
スライムたちは、明らかに、この広間の奥、瓦礫で塞がれた水路の一角に集まっていたのだ。
「何かあるのかもしれないな」
俺たちは瓦礫を少し取り除いてみる。すると、その奥に、人の白骨死体が横たわっているのを発見した。
その鎧は、腐食スライムの酸で溶かされ、原形を留めていない。だが、その傍らには、王家の紋章が刻まれた、防水仕様の筒が一つ、泥の中から鈍い光を放っていた。
「……これは……」
ただのスライム討伐ではなかったのか。
俺たちは、この依頼の裏に隠された、何か大きな事件の匂いを、確かに感じ取っていた。




