第四十三話:王都での初仕事
王都ギルドのBランク掲示板。そこに並ぶ依頼は、どれも一筋縄ではいかないものばかりだった。
俺たちの実力を証明し、かつ、この街での活動資金を稼ぐ。その両方を満たす依頼を、俺は慎重に選んでいた。
「……これにしよう」
俺が選んだのは、『王都地下水路に巣食う、腐食スライムの群れ討伐』という依頼だった。
スライムと聞けば、最弱モンスターの代名詞だ。だが、この腐食スライムは違う。金属を瞬時に溶かす強力な酸の体液を持ち、通常の剣士や騎士では、武器や防具をダメにされるだけで勝負にならない。さらに、物理攻撃では体を分裂させるだけで、決定打を与えにくい。
魔法使いにとっては格好の的だが、狭く、水気の多い地下水路では、大規模な火炎魔法などは使えない。だからこそ、Bランクに指定されているのだ。
「物理攻撃が効きにくく、金属を溶かす、か。なるほどな」
工房に戻り、俺が依頼内容を伝えると、バルガンがニヤリと笑った。
「普通の剣士なら泣いて逃げ出す相手だが、俺たちにとっては、これ以上ないほど相性のいい相手じゃねえか」
その通りだった。
俺たちの攻撃は、そもそも『弾丸』を使い捨てにする。武器が溶ける心配など、最初から皆無だ。
「リリア、どうだ? 何かいい魔法はあるか?」
「はい」とリリアが頷く。「スライムの核を直接破壊するなら、衝撃を内部に浸透させる『震動』の魔法が有効です。でも、それよりも……」
彼女は、少し悪戯っぽく笑った。
「スライムの体を、内側から凍らせて砕くのはどうでしょう? わたしが『極低温の呪い』を付与します。アルクさんが射出すれば、着弾と同時にスライムは凍りつき、その衝撃で粉々になるはずです」
氷結させて、砕く。
なんと、俺たちらしい戦術だろうか。
俺たちは早速、準備に取り掛かった。
今回の『弾丸』は、貴重な『ブレイカー・ボルト』である必要はない。バルガンは、工房に余っていた鉄屑から、ただの鉄の杭を何十本も即席で作り上げた。
リリアは、そのうちの数本に、触れるだけで指が凍りつきそうなほどの、強力な冷気を付与していく。
翌日、俺とリリアは、王都の地下へと続く、古びた階段を降りていた。
ひんやりとした湿った空気が、鼻をつく。時折、遠くから水の流れる音が聞こえてきた。
「……少し、不気味な場所ですね」
「ああ。だが、俺たちの力を示すには、最高の舞台だ」
やがて、俺たちは開けた空間に出た。
そこは、巨大な水路がいくつも交差する中継地点のようだった。そして、その水路のあちこちから、ぶよぶよとした半透明の塊が、ずるりと這い出してくる。
腐食スライムの群れだ。数は、十体以上。
一体が、俺たちに気づくと、体を酸の粘液に変えながら、鞭のようにしならせて襲いかかってきた。
俺は、リリアが付与した『氷結杭』を、アイテムボックスから射出する。
青白い閃光が、闇を切り裂いた。
杭は、スライムの酸の鞭をものともせず、その本体に深々と突き刺さる。
パキィィィィンッ!
次の瞬間、スライムの体は、着弾点を中心に、急速に凍りついていった。そして、射出の衝撃に耐えきれず、まるで氷の彫刻のように、甲高い音を立てて粉々に砕け散った。
一撃。
俺たちの新しい戦術は、完璧に機能した。
俺は、残りのスライムたちへと向き直る。
王都の冒険者たちよ、見ていろ。
これが、『ブレイカーズ』の戦いだ。




