第三十六話:墜ちた空の王者
「――終わりだッ!」
俺の咆哮が、谷間に響き渡る。
アイテムボックスから射出された、本来の威力を持つ『ブレイカー・ボルト』が、一直線に、落下していくテンペスト・ロックへと突き進む。
リリアの呪いによって神速を奪われた空の王者は、もはやただの的だった。
回避する術もなく、その胴体に、寸分の狂いもなく、黒い杭が深々と突き刺さる。
**グシャァッ!!**
鋼鉄の如き硬度を誇ったはずの羽が、いともたやすく砕け散る。
バルガンが鍛え上げた鉄塊は、その勢いを殺すことなく、巨獣の肉を抉り、骨を砕き、その体を内側から破壊した。
「ギィィィィィィィアアアアアアッッ!!」
テンペスト・ロックの、断末魔の絶叫が黒風谷に木霊した。
それは、これまで俺たちが聞いてきた威嚇の咆哮とは全く違う、純粋な苦痛と絶望に満ちた叫びだった。
翼を破壊され、飛行能力を完全に失った巨体は、なすすべもなく、重力に従って地面へと墜落していく。
**ドッッッッッッッッッシィィィィン!!!!**
凄まじい地響きと砂塵が巻き起こる。
谷を吹き荒れていた烈風が、その衝撃に一瞬だけ、ぴたりと止んだ。
そして、訪れる静寂。
砂塵がゆっくりと晴れていくと、そこには、翼を無残に折られ、巨体を横たえて完全に沈黙した、空の王者の亡骸があった。
「……やった……のか……?」
俺は、荒い呼吸を繰り返しながら、その場に膝をつきそうになるのを必死にこらえた。
岩陰から、リリアが駆け寄ってくる。彼女もまた、信じられないものを見る目で、墜落したテンペスト・ロックの姿を見つめていた。
「やりましたね……アルクさん!」
「ああ……やったな、リリア。お前の魔法がなければ、絶対に勝てなかった」
俺がそう言うと、リリアは力強く首を横に振った。
「ううん……アルクさんの、あの作戦と、正確な射撃があったからです。わたしは、ただ信じて魔法を込めただけですから」
俺たちは、互いの顔を見て、自然と笑みをこぼした。
一人では絶対に勝てない相手。だが、二人なら勝てる。
俺たちの絆が、また一つ、この勝利によって強く、固くなったのを感じた。
俺たちは、討伐の証拠として、テンペスト・ロックの金属質の羽や、鋭い爪、そして心臓にあった魔石を回収する。山のような戦利品も、俺のアイテムボックスの前では問題にならない。
かつて空の王者が支配した谷に、今は穏やかな風が吹いている。
俺たちは、また一つ大きな壁を乗り越えた達成感を胸に、ギルドのある街への帰路についた。
『ブレイカーズ』の伝説に、また新たな一ページが刻まれた瞬間だった。




