第三十五話:神速を討つ戦術
テンペスト・ロックは、絶対的な強者の余裕を持って、俺たちの上空を旋回している。時折、威嚇するように急降下を繰り返すが、その度に俺たちは岩陰に隠れることしかできない。
「どうしますか、アルクさん……! このままでは……!」
「落ち着け、リリア。策はある」
俺は荒い息を整えながら、思考を巡らせる。
やつは、俺の射撃を『見てから』避ける。ならば、答えは二つだ。見てから避けられないほどの『面』で攻撃するか、あるいは、避ける能力そのものを奪うか。
「……リリア。お前の『重圧の呪い(グラビティ・カース)』、準備はできてるか?」
「は、はい! いつでも!」
「よし。だが、ただ呪いを込めたニードルを撃っても、あれは避けるだろう。だから、こうする」
俺はリリアに、俺の考えた、無謀とも言える作戦を伝えた。
それは、俺のスキルの精密制御と、リリアの魔法、そして俺たちの信頼関係がなければ、絶対に成り立たない奇策だった。
リリアは一瞬目を見開いたが、すぐに強い意志を宿した瞳で、こくりと頷いた。
「――やります。アルクさんを、信じますから」
その言葉だけで、十分だった。
俺たちは、テンペスト・ロックが次の攻撃のために降下してくる、その一瞬を待った。
そして――来た!
「今だ!」
俺は岩陰から飛び出すと、天を仰ぐ。
そして、【アイテムボックス】に格納しているありったけのガラクタ――石ころ、鉄屑、合わせて数十個――を、リリアが呪いを込めた一本の『ブレイカー・ニードル』と**同時に**、広範囲に向けて射出した!
それは、まさしく散弾。
空中に、巨大な礫の網が形成される。
テンペスト・ロックは、さすがにこれには驚いたようだった。一つの弾丸を避けるのは容易いが、広範囲に迫りくる無数の障害物を、全て避けることはできない。
「グルァッ!」
やつは翼を巧みに動かし、飛来する石や鉄屑を弾き、あるいはその合間を縫うようにして突き進む。
だが、その回避機動に全神経を集中させていたやつは、気づかなかった。
無数のガラクタの中にたった一本だけ混じっていた、リリアの魔力が込められた、本命の存在に。
チクリ、と。
回避の最中、ニードルが、やつの巨大な翼の膜をわずかに掠めた。
「――かかったな!」
直後、テンペスト・ロックの体が、ぐらりと大きく傾いだ。
「グ、ギィ!?」
まるで、翼に鉛の重りをいくつも括り付けられたかのように、その動きが急激に鈍重になる。リリアの『重圧の呪い』が、確実に効果を発揮したのだ。
神速を誇った空の王者は、バランスを崩し、不格好に高度を下げていく。
もはや、神速の脅威はない。
ただの、巨大で頑丈な――的に変わった。
「もらった!」
俺は、アイテムボックスから選択する『弾丸』を、ガラクタから、バルガンが作った本来の『ブレイカー・ボルト』へと切り替える。
狙うは、落下していく巨獣の、大きくがら空きになった胴体。
これが、俺たち『ブレイカーズ』の戦術だ。
俺は勝利を確信し、必殺の一撃を放つべく、右腕を天に突き出した。




