第三十三話:新たなる脅威の影
俺たちの日常は、劇的に変わった。
朝は、俺とリリアで街の市場へ買い出しに行き、昼はバルガンの新しい工房で、それぞれの鍛錬と研究に打ち込む。
バルガンは、早速新しい弾丸の開発に取り掛かっていた。
これまでの一撃必殺の『ブレイカー・ボルト』とは別に、俺のスキルで連射することを想定した、より小型で軽量な『ブレイカー・ニードル』。そして、広範囲の敵を制圧するための散弾『ブレイカー・クラスター』。彼の創造力は、最高の環境を得て、まさに爆発していた。
リリアは、庵から持ってきた魔法書と、ギルドの資料室から借りてきた文献を読み解き、新たな付与魔法の理論構築に没頭している。その瞳は、もはや怯えた小動物のものではなく、真理を探求する学者のように、知的な輝きを放っていた。
そして俺は、ひたすらに射出訓練を繰り返した。
これまでは、ただ全力で撃つことしか考えていなかった。だが、これからは違う。高速で動く的を正確に狙う精密射撃。複数の弾丸を、時間差で別々の場所に撃ち込む曲芸撃ち。スキルの応用範囲は、俺の想像力次第で無限に広がる。
そんな、充実した日々が続いていたある日のこと。
俺はBランクになったことで閲覧が許可された、高難易度の依頼掲示板を眺めていた。そこに、一枚の奇妙な依頼書があるのを見つける。
**『調査依頼:黒風谷に出現する怪鳥』**
**『依頼主:子爵領代官』**
**『詳細:三日前より、領地内の黒風谷に巨大な怪鳥が出現。谷を越えようとした商隊が襲われ、多大な被害が出ている。対象は異常に素早く、騎士団の弓では捉えきれないため、腕利きの冒険者に調査と、可能であれば討伐を依頼する』**
異常に、素早い敵。
これまでの敵とは、明らかにタイプが違う。
俺たちの新しい力が、そして俺の精密射撃が試される相手として、これ以上ないように思えた。
「――面白そうじゃないか」
俺はその依頼書を手に、工房へと戻った。
俺から依頼内容を聞いたバルガンとリリアも、明らかに興味を惹かれたようだった。
「ほう、空飛ぶやかましい的か。連射性能を試すには、もってこいだな」とバルガンが笑う。
「……速い相手なら、わたしの新しい魔法が役に立つかもしれません。『重圧の呪い(グラビティ・カース)』です。対象の動きを、重力で少しだけ鈍らせることができます」とリリアが提案した。
対・高速タイプの敵。
俺たちの戦術に、新たな一ページが加わる。
俺たちはすぐさま準備に取り掛かった。バルガンは、完成したばかりの試作品『ブレイカー・ニードル』を数十本、俺の【アイテムボックス】に格納する。リリアは、そのうちの数本に、念入りに『重圧の呪い』を付与してくれた。
準備は整った。
翌朝、俺とリリアは、新たな戦場となる黒風谷へと向かった。
鋼鉄ゴーレムとの戦いを経て、自信と信頼を深めた俺たちの顔に、もはや不安の色はなかった。
あるのは、未知なる強敵と戦えることへの、純粋な高揚感だけだった。




