第三十二話:ザーグの末路と新たな工房
Bランクへの特例昇格。それは、俺たちがギルドという組織に公式に認められた証だった。
銀色のプレートを手にギルドホールへ戻ると、そこにいた冒険者たちの見る目が、昨日までとは明らかに違うものになっていた。
嫉妬、羨望、そして侮れない相手を見る警戒の色。
もう、誰も俺たちを「ポーター崩れ」や「呪いのエンチャンター」とは呼ばない。誰もが、俺たちを『ブレイカーズ』として認識していた。
その視線の中に、俺は見知った顔を見つけた。
「赤き剣」の、魔術師リオナと盗賊のジンだ。彼らは、俺たちの姿を認めると、ばつが悪そうに目を逸らし、足早にギルドから出て行ってしまった。
その隣に、リーダーであるザーグの姿はない。
気になって受付の職員さんに尋ねてみると、彼女は少しだけ同情的な、それでいて呆れたような表情で教えてくれた。
「ザーグさんなら……昨日のうちに、パーティーを解散して、この街を出て行かれましたよ」
「……そうか」
「プライドを完全に砕かれてしまったのでしょう。あなた方が鋼鉄ゴーレムを討伐したという事実が、彼には耐えられなかったようです。リオナさんたちも、新しいパーティーを探すか、引退するかで悩んでいるとか……」
ザーグの末路。
それを聞いても、俺の心は不思議なほどに静かだった。もはや、彼は俺にとって、乗り越えるべき壁ですらない。ただ、過去の風景の一つになってしまった。
俺たちは、もう前だけを見て進む。
***
鋼鉄ゴーレムの報酬は、俺たちの想像を絶する額だった。
希少金属の塊であったゴーレムの残骸と、巨大な魔石コアの買取価格は、小国の国家予算に匹敵するとギルドマスターは言っていた。
その莫大な資金を元手に、俺たちが最初にしたこと。
それは、バルガンのための、最高の工房を建てることだった。
「クハハハハ! おい見ろよアルク、リリア! 俺だけの、俺のための城だ!」
数日後、職人街の一等地、以前の古びた工房の数倍の敷地に、最新鋭の設備を備えた巨大な工房が完成した。中には、ドワーフの国から取り寄せたという魔法の炉や、巨大な金属を加工するための魔力駆動のプレス機まで備え付けられている。
バルガンは、まるで子供のように目を輝かせ、早速新しい玩具(設備)をいじり回していた。
「これなら、これまでとは次元の違うモンが作れるぞ! 例えば、連射に特化した小型のボルト……名付けて『ブレイカー・ニードル』! あるいは、着弾と同時に無数の金属片を撒き散らす広範囲制圧用の散弾……『ブレイカー・クラスター』なんてどうだ!」
次から次へと溢れ出る、彼の創造意欲。
リリアもまた、庵から運び込んだ大量の魔法書を工房の一角に並べ、自分だけの研究室を作り上げていた。
「わたしも、新しい付与魔法を研究します。敵の再生能力を阻害する『腐食の呪い』や、魔法そのものを霧散させる『霧散の祝福』とか……」
最高の鍛冶師に、最高の工房。
最高の付与魔術師に、最高の研究環境。
そして、それらを繋ぎ合わせる、俺という砲台。
俺たち『ブレイカーズ』の力は、まだ底が見えない。
新たな拠点で、俺たちの果てしないパワーアップが、今まさに始まろうとしていた。




