第三十一話:轟く名声と新たな日常
鋼鉄ゴーレムを討伐した翌日。
街の空気は、明らかに変わっていた。
俺たちが報酬金で借りた、街の一角にある少し立派な家。そこが、俺たち『ブレイカーズ』の新たな拠点だ。朝、俺とリリアが食料の買い出しに通りへ出ると、すれ違う人々が、明らかに俺たちに気づいて囁き合っているのが分かった。
「おい、見ろよ……あれが『ブレイカーズ』の……」
「鋼鉄ゴーレムを、たった一撃で……!?」
「隣の女の子が、あの『呪いのエンチャンター』の……」
だが、その声に、かつてのような嘲りや侮蔑の色はない。あるのは、畏怖と、神話の登場人物でも見るかのような好奇心だけだ。
リリアは、人々の視線にまだ慣れないのか、少しだけ俺の後ろを歩いている。だが、その顔はもう怯えてはいなかった。胸を張り、しっかりと前を見据えている。
バルガンの工房を訪ねると、そちらはそちらで大変な騒ぎになっていた。
「だから! うちの店の最高級の鉱石を独占契約で卸すと言っとるだろうが!」
「バルガン様! ぜひ、我が商会の商品も見てくだされ!」
これまで閑古鳥が鳴いていた工房に、街中の名だたる商会の商人たちが押し寄せ、必死に頭を下げている。バルガンは「うるせえ! 俺は俺が認めたモンしか使わねえんだよ!」と一喝して彼らを追い返していたが、その顔はまんざらでもなさそうだった。
そんな、変わり始めた日常の昼下がり。
俺たちの拠点に、冒険者ギルドからの使いがやってきた。
「――ギルドマスターが、皆様に直接お話を、と」
ギルドマスターからの、直々の呼び出し。
俺たち三人が連れられて通されたのは、普段の騒がしい酒場ではなく、ギルドの最上階にある、重厚な執務室だった。
「よく来てくれた、『ブレイカーズ』の諸君」
革張りの椅子に深く腰掛け、俺たちを迎えたのは、百戦錬磨の風格を漂わせる、片目に傷のある老齢の男性。この街の冒険者ギルドを束ねる、ギルドマスターその人だった。
「鋼鉄ゴーレムの一件、見事という他ない。君たちの功績は、Aランクパーティーにも匹敵する。いや、その特異性を考えれば、それ以上やもしれんな」
彼は、俺たちのランクを示す銅のプレートを取り出すと、いともたやすくそれを握り潰した。
そして、代わりに三枚の、銀色に輝くプレートをテーブルに置く。
「本日をもって、君たちを特例でBランクに昇格させる。今後、ギルドは君たちの活動を全面的にバックアップすることを約束しよう」
「……いいのか?」
「ギルドは実力主義だ。君たちには、その資格が十分すぎるほどある」
ギルドマスターは、そこで一度言葉を切ると、厳しい目で俺たちを見据えた。
「だが、覚えておけ。突出した力は、多くのものを惹きつける。それは、賞賛や富だけではない。嫉妬、敵意、そして君たちの力を利用しようとする、黒い思惑もな。――心して進むがいい」
その言葉は、俺たちが新たなステージに立ったことを、何よりも雄弁に物語っていた。
執務室を出て、眼下のギルドホールを見下ろす。
もう、俺たちは最下層から見上げるだけの存在ではない。
俺たち『ブレイカーズ』の、本当の冒険が、今まさに始まろうとしていた。




