第三十話:始まりの一射
どれほどの時間が経っただろうか。
最初に沈黙を破ったのは、バルガンの乾いた笑い声だった。
「ク……クク……ハッハッハ! やりやがった……本当に、やりやがったぞ、俺たちは!」
その声を合図にしたかのように、張り詰めていた緊張の糸が切れ、俺とリリアも、どっと体の力が抜けていくのを感じた。俺は地面に大の字に寝転がり、リリアはその場にへたり込んで、静かに涙を拭っている。
俺たちは、勝ったのだ。
しばらくして、俺たちはようやく体を起こすと、戦いの痕跡を確かめるように、倒れた鋼鉄ゴーレムの亡骸へと近づいた。間近で見ると、その巨体はまるで小さな山のようだ。そして、その胸に穿たれた風穴は、俺たちの成し遂げたことの何より雄弁な証拠だった。
「見ろよ、アルク、リリア。完璧だ……完璧な破壊だ……」
バルガンは、砕け散った装甲の破片を拾い上げ、恍惚とした表情で呟いている。
俺は、むき出しになったゴーレムのコアへと手を伸ばした。それは、子供の頭ほどもある巨大な魔石で、ひび割れてはいるが、未だに莫大な魔力を内に秘めているのが分かる。討伐の証拠としては、これ以上ないものだった。
俺がその巨大なコアと、周辺の希少金属の残骸をいともたやすく【アイテムボックス】に格納すると、リリアが「あらためて見ると、すごいスキルですね」と小さく笑った。
街への帰路は、三人の興奮と達成感に満ちていた。
俺たちは、自分たちの力が本物であることを証明した。もはや、俺たちは社会から見捨てられた「欠陥品」の集まりではない。互いの『欠点』を、最強の『武器』に変えた、唯一無二のパーティーなのだ。
翌日。俺たち三人は、冒険者ギルドの扉を開けた。
中には、昨日と同じように「赤き剣」のメンバーがいた。ザーグは、俺たちの姿を認めると、待ってましたとばかりに、嘲るような笑みを浮かべる。
「よう、生きて帰ってこれたのか、ポーター様御一行。さぞかし惨めに逃げ帰ってきたんだろうなあ?」
ギルド中の冒険者が、面白そうにこちらを見ている。
俺は、そんなザーグの挑発には一切乗らず、まっすぐ受付カウンターへ向かった。
「グレンデル採石場の依頼。完了報告だ」
「はっ、完了だと? 寝言は寝て言え! てめえらが逃げ出したって報告なら、聞いてやるぜ!」
ザーグがなおも喚き立てる。
俺は、そんな彼を一瞥すると、討伐の証拠をカウンターの上に取り出した。
**ゴトンッ**、と。重く、鈍い音を立てて。
それは、鋼鉄ゴーレムの、巨大な魔石コアだった。
ひび割れ、魔力の光は弱まっているが、それが何であるかは、熟練の冒険者であれば一目で分かる。ギルドマスタークラスでなければお目にかかることすらできない、伝説級のドロップアイテム。
ギルドホールを支配していた喧騒と嘲笑が、嘘のように消え去った。
誰もが息を呑み、カウンターの上のコアと、俺たち三人を見比べている。
ザーグの顔から、血の気が引いていくのが分かった。その表情は、驚愕を通り越し、理解不能なものに対する、純粋な恐怖に染まっていた。
自分たちが、誇りの魔剣で傷一つつけられなかった、あの絶対的な存在。
それを、自分が見下し、ゴミのように捨てたポーターが、仲間と共に、打ち破った。
そのありえない事実が、彼の砕け散ったプライドを、さらに木っ端微塵に粉砕していく。
「……う、そだろ……」
かろうじて絞り出されたザーグの声は、誰の耳に届くこともなく、静寂の中に溶けて消えた。
俺は、もう彼に何も言う必要はなかった。
これが、俺たちの答えだ。
俺たち『ブレイカーズ』の、伝説の始まりを告げる――最初の一射だった。




