第三話:見捨てられる少年
その時は、唐突に訪れた。
曲がりくねった通路を抜けた先、俺たちは広々とした円形の空間に出た。そして、空間の中央で待ち構えていたそいつを見て、誰もが息を呑んだ。
「ミノタウロス……だと!?」
ザーグの驚愕に満ちた声が響く。
牛の頭を持つ、身の丈3メートルはあろうかという巨体。その手には、俺の胴体ほどもある巨大な戦斧が握られていた。通常のパーティーであれば、入念な準備をしてようやく挑めるかどうかの強敵だ。
「グルォォォォ!!」
雄叫びと共に、ミノタウロスが地を蹴って突進してくる。その凄まじい突進力に、パーティーの誰もが反応できなかった。
「ぐっ……!」
最初に吹き飛ばされたのは、リーダーのザーグだった。自慢の大剣で受け止めようとしたが、まるで子供のように弾き飛ばされ、壁に叩きつけられる。
「ザーグ!」
「クソっ、なんて力だ……!」
ジンが短剣で足元を狙い、リオナが炎の矢を放つが、分厚い筋肉と硬い皮膚にはまるで通用しない。ミノタウロスの戦斧が横薙ぎに振るわれ、ジンとリオナもかろうじてそれを避けるのが精一杯だった。
完全に、格上の相手だった。
パーティーはじりじりと後退し、壁際に追い詰められていく。俺はアイテムボックスから最上級のポーションを取り出し、壁際で呻くザーグに駆け寄ろうとした。
その時だった。
「アルク!」
俺の名を呼んだザーグの目に、これまで見たことのない光が宿っていた。それは焦りと……そして、非情な計算の色だった。
「お前、最後の仕事だ。あいつの足止めをしろ」
「え……?」
理解が追いつかなかった。足止め? 俺が? どうやって。
そんな俺の戸惑いを無視して、ザーグは絶望的な言葉を続けた。
「お前は荷物持ちだろ。どうせ戦えねえんだ。だったら、その身を挺して俺たちのための時間稼ぎくらいはしてみせろ」
「なっ……!」
ジンとリオナも、その言葉に目を見開く。だが、彼らは何も言わなかった。ザーグの決定に逆らえないのか、あるいは、自分たちが助かるためにはそれしかないと瞬時に理解したのか。
次の瞬間、俺の背中に強い衝撃が走った。
「うわっ!?」
ザーグに力任せに突き飛ばされ、俺の体は無防備なままミノタウロスの眼前に転がり出る。
「さあ行け! その役立たずがお前の相手だ!」
ザーグはそう叫ぶと、仲間たちと共に踵を返し、俺たちが入ってきた通路へと全力で走り出した。彼らの背中が、暗闇に消えていく。
取り残されたのは、俺一人。
そして、巨大な戦斧を振り上げ、俺を見下ろす一体のミノタウロス。
絶望的な状況の中で、俺の頭に響いていたのは、ザーグが最後に吐き捨てた言葉だった。
――最後の仕事くらい、しっかりやれ。
(……ああ、そうか。俺は、ここで死ぬのか)
あまりにもあっけない、冒険者としての最期だった。




