第二十九話:砕け散る鋼鉄
――放てッ!
俺の意志に呼応し、【アイテムボックス】が咆哮を上げた。
右腕の前の空間が、まるでブラックホールのように深く、黒く歪む。そこから、俺たちの全てを乗せた『破砕の震撃杭』が、世界そのものを置き去りにするかのごとき速度で射出された。
**ゴオオオオオオオオオオオオッ!!!**
それは、もはや風切り音ではなかった。
空間そのものが悲鳴を上げるような、凄まじい轟音。射出の余波だけで、俺の足元の地面が放射状に砕け散り、その反動で俺の体は大きく後方へと吹き飛ばされる。
空中で体勢を立て直しながら、俺はただ、その一射の軌跡を見つめていた。
リリアの振動魔法を纏った杭は、淡い光の尾を引きながら、寸分の狂いもなく鋼鉄の巨人の胸の中心へと突き進む。
そして――着弾。
キィィィンッ!という、耳を劈く甲高い金属音。
バルガンの最高傑作であるアダマンタイトの先端が、常識ではありえない魔法金属の装甲を、ほんのわずかに、しかし確実に穿った。
その瞬間、リリアの魔法が炸裂した。
ブゥゥン、と低い振動音を響かせた杭は、次の瞬間には甲高い超高周波を発生させる。その振動は、杭が作ったミクロの亀裂を伝い、鋼鉄の装甲全体へと、まるで致死の毒のように瞬時に伝播していった。
バキ、バキバキバキッ!
鋼鉄の巨人の胸に、蜘蛛の巣のような亀裂が、凄まじい速度で広がっていく。
そして――
**ドゴォォォォォォォォンッ!!!**
ゴーレムの分厚い胸部装甲が、内側からの衝撃に耐えきれず、爆散した。
何十、何百という金属の破片を撒き散らしながら、その胸に巨大な風穴が穿たれる。
風穴の奥で、動力源である真っ赤な魔石コアが、むき出しのまま弱々しく明滅していた。
ピシッ、とコアに亀裂が走る。
すると、鋼鉄ゴーレムの巨体から、ふっと全ての力が抜けていくのが分かった。
赤いモノアイの光が、ゆっくりと、ゆっくりと消えていく。
生命を失った鉄の巨人は、天を仰ぐようにして、やがてその巨体を支えきれずに、地響きを立てながら背中から倒れ込んだ。
**ドッッッッッッッッッシィィィィィィン!!!!**
採石場全体が、地震のように揺れた。
巻き起こった砂塵が晴れると、そこには、無様に大破し、完全に沈黙した鋼鉄のゴーレムの亡骸だけが横たわっていた。
「……やった、のか……?」
吹き飛ばされた勢いのまま、地面にへたり込んでいた俺が、かろうじて絞り出した声。
岩壁の上では、バルガンが腰を抜かしたように座り込み、リリアは両手で口を覆ったまま、ただ涙を流していた。
俺たちは、やったのだ。
街の有力パーティーですら、誰もが不可能だと絶望した、あの鉄の巨人を。
俺たち『ブレイカーズ』の、たった三人で。たった一撃で、打ち破ったのだ。
静寂に包まれた採石場に、俺たちの荒い呼吸の音だけが、いつまでも響いていた。




