第二十七話:鉄の巨人、起動
赤いモノアイが俺たちを捉えた瞬間、ゴゴゴゴ……と、地響きのような低い起動音が採石場に響き渡った。
鋼鉄ゴーレレムが、ゆっくりと巨体ちを起こす。その一つ一つの動作が、周囲の岩を震わせ、空気を圧迫するかのようだ。
「……来たな」
バルガンが、緊張に満ちた声で呟く。彼の額には、工房の炉の前にいる時とは違う、冷たい汗が浮かんでいた。
リリアは、俺の後ろで杖を固く握りしめている。彼女の表情は真剣そのものだ。
鋼鉄の巨人は完全に立ち上がると、その巨大な腕を振り上げた。狙いは、明らかに俺たちだ。
「アルク! 来るぞ!」
「分かってる!」
俺は、すぐさま二人を抱えるようにして、その場から大きく横へ跳んだ。
直後。
**ズゥゥゥゥゥゥンッ!!!**
凄まじい轟音と共に、俺たちが先ほどまで立っていた地面が、巨大な拳によってクレーターのように陥没した。もし避けるのが一瞬でも遅れていたら、俺たちは三人まとめて肉塊になっていただろう。
「……とんでもねえパワーだ」
「速さもあります……! あれだけの巨体なのに、動きが鈍重じゃない!」
リリアの分析通り、ゴーレムの動きには、その質量からは考えられないほどの速度が伴っていた。
次なる一撃が、間髪入れずに繰り出される。俺たちは散開し、巨大な岩を盾にしながら、必死に攻撃を回避し続けた。
これでは、ただ逃げ回っているだけだ。
反撃の隙を窺うが、ゴーレムの攻撃には一切の無駄がない。右腕の攻撃を避ければ、左腕が薙ぎ払ってくる。両腕をかわせば、足元への踏みつけが襲ってくる。
「チッ、これじゃ近づくことすらできやしねえ!」
岩陰から顔を出したバルガンが、悪態をつく。
このままではジリ貧だ。
俺は、この膠着状態を打破するため、一つの決断をする。
「バルガン、リリア! 俺が注意を引きつける! その隙に、二人とも最高のポジションまで下がってくれ!」
「なっ、アルクさん! 無茶です!」
「無茶じゃねえ。俺のスキルは、こういう時にこそ生きる!」
俺は二人の返事を待たず、岩陰から飛び出した。
そして、ゴーレムの注意を引くため、アイテムボックスからただの石ころを、その巨大な顔面へと射出する。
カンッ!と軽い音を立てて、石はゴーレムの装甲に弾かれた。ダメージはゼロだ。
だが、その行為は、ゴーレムの優先ターゲットを俺一人に固定するには十分だった。
赤いモノアイが、明確な殺意をもって俺を捉える。
巨人の猛攻が、俺一人へと集中し始めた。
「アルク!」
「行け! 俺を信じろ!」
俺は仲間たちの悲痛な叫びを背に、死と隣り合わせの鬼ごっこを始めた。
全ては、あの究極の一射を、最高の形で叩き込むために。




