第二十六話:破砕の震撃杭(シャッターパイル)
あれから二日。
バルガンの工房は、戦場さながらの熱気と緊張感に包まれていた。
炉は休むことなく燃え続け、バルガンは寝食も忘れたかのように槌を振るい続ける。彼が今回仕入れてきたのは、ミスリル銀やオリハルコンといった、一本の剣を打つのに国家予算が動くレベルの超希少金属だった。
そして、決戦の日の朝。
「―――できたぞ」
疲れ果て、しかし達成感に満ちた声と共に、バルガンが掲げたのは、まさしく彼自身の最高傑作だった。
それは、これまで作ってきた『ブレイカー・ボルト』とは次元が違う。先端には、闇を吸い込むかのような黒い金属が使われ、その一点に全ての質量と機能が凝縮されている。無駄な装飾はない。だが、その存在そのものが、見る者を畏怖させるほどのオーラを放っていた。
「次は、わたしの番です」
まだ熱を帯びたままの杭を前に、リリアが静かに目を閉じる。
工房の床に淡い光で魔法陣が描かれ、これまで聞いたこともないような、複雑で荘厳な詠唱が始まった。彼女の全魔力が、その一本の杭へと注ぎ込まれていく。
やがて、杭は眩い光を放つのをやめ、代わりに、ブゥゥン…という、ごく低い振動音だけが響き渡った。見た目にはほとんど変化はない。だが、その内部に、岩盤すら分子レベルで崩壊させるほどの、凄まじい振動エネルギーが封じ込められているのが、肌で感じられた。
俺たちは、その究極の一本を名付けた。
**『破砕の震撃杭』**と。
「よし、行くか」とバルガンが言った。「俺の最高傑作の晴れ舞台だ。この目で見届けねえわけにいくか」
彼の申し出に、俺とリリアは力強く頷いた。
初めて、俺たち『ブレイカーズ』の三人が、一つの目的のために戦場へと向かう。
グレンデル採石場は、巨大な岩壁がそそり立つ、荒涼とした場所だった。
地面には、魔法によるものか、黒く焼け焦げた跡や、激しい戦闘の痕に砕けた岩が散乱している。ザーグたちが、いかに激しく、そして無力な戦いを挑んだかがうかがえた。
そして、採石場の最も開けた中央エリアに、それは静かに佇んでいた。
鋼鉄ゴーレム。
全長は10メートルを超え、磨き上げられた黒曜石のような、滑らかな金属の体を持つ巨人。関節や継ぎ目といった、弱点になりそうなものは一切見当たらない。ただ、そこにあるというだけで、周囲の空間を歪めるほどの、圧倒的な存在感。
今は、その巨人は完全に沈黙している。
だが、俺たちがその領域に足を踏み入れた瞬間、ゴーレムの頭部にある、一つの赤いモノアイが、不気味な光を灯した。
鋼鉄の巨人を前に、俺たち三人は、静かに息を呑んだ。
決戦の時が、来た。




