第二十四話:砕かれたプライド
俺が鋼鉄ゴーレムの依頼書に手を伸ばそうとした、まさにその時だった。
俺の存在に気づいたザーグが、血走った目でこちらを睨みつけてきた。その視線には、嫉妬と、そして自分の不甲斐なさを八つ当たりするかのような、醜い怒りが渦巻いていた。
「……アルクか。てめえ、最近調子に乗ってるらしいじゃねえか」
吐き捨てるような言葉に、ギルド内の注目が一気に俺たちに集まる。
俺は何も答えず、ただ静かに彼を見返した。その態度が、さらに彼の神経を逆なでしたらしい。
「ポーター風情が、まぐれ当たりで手に入れた金でいい気になりやがって。俺たちが苦戦しているのを見て、笑いに来たのか?」
「……別に」
「なんだと、てめえ!」
今にも掴みかかってきそうなザーグを、仲間であるリオナとジンが慌てて止める。
「よせ、ザーグ! ここはギルドだぞ!」
「そうだぜ、リーダー。こいつはもう、俺たちとは関係ねえ……」
腕を負傷しているジンが、悔しそうに歯を食いしばる。
彼らのプライドは、鋼鉄ゴーレムによって粉々に打ち砕かれていた。そして、そのやり場のない怒りの矛先を、かつて自分たちが見下していた俺に向けることで、かろうじて保っているように見えた。
ザーグは、俺が手に取ろうとしていた依頼書に気づくと、鼻で笑った。
「ハッ、まさかてめえ、その依頼を受ける気じゃねえだろうな? 鋼鉄ゴーレムだぞ? 俺の、この最高級の魔剣ですら、傷一つつけられなかったんだ。お前のような非戦闘員に何ができる?」
彼の言葉は、もはや負け惜しみにしか聞こえなかった。
だが、その言葉は同時に、俺の胸の内にあった闘志に、確かな火をつけた。
お前たちの剣では、傷一つつけられない。
それはつまり、斬撃や刺突といった、ありきたりな攻撃が通用しないということだ。
ならば。
一点集中の、極限の『貫通力』を持つ俺たちの攻撃なら、どうだ?
「……どうかな」
俺はザーグの挑発を静かに受け流し、依頼書を掲示板から剥がした。
そして、受付カウンターへと向かう。
「この依頼、俺たち『ブレイカーズ』が引き受ける」
俺の宣言に、ギルド内が大きくどよめいた。
無謀だ、と誰もが思っただろう。Aランク昇格を目指す有力パーティーですら敗退したのだ。ポーターとエンチャンター、そして姿の見えない鍛冶師の三人で構成された、得体の知れない新人パーティーに何ができるのかと。
ザーグは、俺の行動が信じられないといった顔で固まっていたが、やがて腹を抱えて笑い出した。
「ククク……ハッハッハ! そうか、そうか! 死に急ぎやがって! いいだろう、受けるがいい! そして、俺たちが味わった絶望を、てめえもその身で味わってこい!」
高笑いを続けるザーグに背を向け、俺はギルドを後にした。
彼のプライドは、もうどうでもよかった。
俺の頭の中は、いかにしてあの『鋼鉄の巨人』を打ち砕くか、その一点で満たされていた。
工房に戻ると、バルガンとリリアが俺のただならぬ気配を察して、真剣な顔で待っていた。
俺は、二人の頼もしい仲間に向かって、手にした依頼書を掲げる。
「――次の獲物が決まったぞ」




