第二十三話:驕れる者たちの帰還
グール討伐の依頼を完了させ、俺とリリアはギルドへと戻った。
受付カウンターで討伐の証拠を提出すると、職員さんはもはや驚くこともなく、手際よく報酬の計算を始めてくれた。俺たちの周りからは、以前のような嘲笑ではなく、畏怖と好奇の入り混じった囁き声が聞こえてくる。
「おい、またあの『ブレイカーズ』だ」
「今度はアンデッド討伐かよ……ポーターとエンチャンターの二人だけで、どうやって……」
工房に戻り、報酬をバルガンに渡すと、彼は満足げに頷いた。
「上々だな。だがアルク、お前たちの戦い方はまだ粗削りだ」
工房で祝杯を上げながら、俺は今回の戦いを振り返っていた。
「ああ。リリアの魔法弾は強力だが、切り札だ。もっと効率よく戦えるはずだ」
すると、今まで黙って聞いていたリリアが、意を決したように顔を上げた。
「……あの、アルクさん。わたしも、もっと上手くやれます」
「どういうことだ?」
「今回は、事前に『浄化の炎』を付与しました。でも、もしわたしが戦いの場にいて、敵を直接見ることができたら……その場で、最適な魔法を選んで付与できるはずです」
彼女の提案に、俺とバルガンは目を見合わせた。
「例えば」とリリアは続ける。「弱いアンデッドなら、高価なボルトではなく、アルクさんが射出する石ころ一つ一つに、小さな浄化の光を込めることもできます。そうすれば、切り札を温存しながら、群れを効率よく掃討できる。敵が炎に耐性があるなら氷を、動きが速いなら麻痺の呪いを……わたしがその場で『見て』判断します」
それは、俺たちの戦術が根底から進化することを意味していた。
俺が『砲台』で、バルガンが『弾薬庫』なら、リリアは戦況を読み、最適な弾種を指示する『射撃管制官』だ。
「面白い! だが、嬢ちゃんには危険すぎねえか?」
バルガンの心配ももっともだ。だが、俺はリリアの瞳に宿る、強い意志を見ていた。
「やってみたいです。わたしも、ただ守られるだけじゃなく、アルクさんと一緒に戦いたいから」
その時だった。
ガシャン!と大きな音を立てて、ギルドの扉が乱暴に開かれた。
酒場の喧騒が一瞬にして静まり返る。そこに立っていたのは、ボロボロになった「赤き剣」のメンバーだった。
リーダーのザーグの鎧は見るも無残にへこみ、魔術師のリオナはマナ欠乏でぐったりとしている。盗賊のジンに至っては、片腕をだらりとさせて仲間に肩を貸してもらっていた。誰もが消耗しきっており、その顔には敗北と屈辱の色が濃く浮かんでいた。
「クソっ……なんなんだよ、あいつは……!」
ザーグはカウンターに拳を叩きつけ、悪態をつく。
「俺の剣が、傷一つつけられねえなんて……ありえねえだろ!」
ギルド内がざわつく。
「おい、あれ『赤き剣』だろ。何があったんだ?」
「噂じゃ、Aランクへの昇格依頼で、古い採石場の『鋼鉄ゴーレム』に挑んだらしいぜ」
「鋼鉄ゴーレム!? 無謀な……!」
その名を聞いて、俺は掲示板へと目をやった。
そこには、ひときわ目立つ、高額な報酬が設定された依頼書が貼られている。
**『緊急討伐依頼:グレンデル採石場の鋼鉄ゴーレム』**
依頼書の隅には、いくつものパーティー名が記され、その全てに「失敗」の赤いスタンプが押されていた。そして今日、そこに「赤き剣」の名前が新たに加わったのだ。
俺は、悔しさに顔を歪めるザーグを、静かに見つめていた。
かつて俺を「役立たず」と罵り、捨てた男。その彼が、己の力の限界に打ちのめされている。
だが、俺の心にあったのは、単なる満足感だけではなかった。
鋼鉄の体。傷一つつけられない、絶対的な防御力。
それは、俺たち『ブレイカーズ』の力を試すのに、これ以上ない、最高の相手ではないか。
俺は、まるで引き寄せられるように、その依頼書へと一歩、足を踏み出した。




