第二話:理不尽な叱責
あれから数時間、俺たちはさらにダンジョンの下層へと進んでいた。
通路は単調な岩肌の景色が続き、精神的な疲労はじわじわとパーティー全体を蝕んでいく。
「ちっ、まだ先が見えねえのかよ。リオナ、マナはまだ持つか?」
リーダーのザーグが、苛立ちを隠しもせずに舌打ちした。彼の問いに、魔術師のリオナが申し訳なさそうに答える。
「ごめんなさい、ザーグ。もうほとんど残ってなくて……一度、マナポーションを」
「アルク! マナポーションだ! 聞こえなかったのか!」
リオナの言葉が終わる前に、ザーグの怒声が俺に突き刺さる。
言われるまでもなく、俺はすでに意識を集中させていた。右手には、青い液体が満たされた小瓶が現れる。
「はい、どうぞ」
「ああ」
リオナにポーションを手渡すと、彼女はこくりと頷き、すぐにそれを飲み干した。その様子を横目に見ていたザーグが、今度は俺に顎をしゃくる。
「ついでだ、松明も出せ。少し先の様子を探る」
「わかった」
再び【アイテムボックス】に意識を向ける。格納されている無数のアイテムの中から、目的の松明を探し出し、現実世界へと取り出す。ほんの数秒の作業だ。だが、その数秒がリーダーの気に障ったらしい。
「遅い! なんでポーションと一緒に出さねえんだ! 頭が回らねえのか、この役立たずが!」
理不尽、という言葉しか浮かばなかった。
言われてもいないものを、どうして先読みして出せるというのか。ポーションと松明を同時に要求されていれば、そうした。だが、彼の指示は常に後出しで、その場の気分で変わる。
(言われなきゃ分かるわけないだろう……)
喉まで出かかった言葉を、ぐっと飲み込む。ここで反論したところで、殴られるのが関の山だ。このパーティーにおいて、力のないポーターに発言権などない。
「……すみません」
俺が絞り出した謝罪に、ザーグは鼻を鳴らした。盗賊のジンは意地悪く口の端を吊り上げ、リオナは気まずそうに視線を逸らした。誰も、俺を庇ってはくれない。いつものことだ。
俺の【アイテムボックス(無限)】がなければ、そもそもこれほど長時間のダンジョン探索は不可能だ。食料も、水も、大量のポーションも、キャンプ用の道具一式も、全て俺が一人で運んでいる。
彼らがその恩恵を当然のように享受しながら、俺という人間を侮辱し続ける。
その理不尽さに、奥歯を噛みしめる。
心の中で何かがすり減っていく音がした。
その何かが、完全に砕け散るまで、もう時間は残されていなかった。




