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第十七話:森の庵

翌朝、俺とバルガンは行動を開始した。

まずは、その『呪いのエンチャンター』の正確な居場所を突き止める必要がある。俺たちは職人街の外れにある、古くからやっている情報屋を訪ねた。


「……森の魔女っ子かい。また面倒な話を持ち込むねえ」


老情報屋は、俺たちの依頼内容を聞くと、やれやれと首を振った。


「街の西にある『囁きの森』。その森の奥深く、二筋の滝が落ちる沢のほとりに、その子の庵はある。だが、忠告しとくぜ。あの子の力は本物だ。下手に近づいて呪われても、俺は知らねえからな」


半ば脅しのような忠告と共に、俺たちは貴重な情報を手に入れた。

工房に戻ると、バルガンは俺に一本の、寸分の狂いもなく仕上げられた完璧な『ブレイカー・ボルト』を手渡した。


「これを持って行け、アルク。俺たちの『弾丸』が、どれほどの器か、その目で見せてやれ。最高の絵を描くには、最高の画布キャンバスが必要だろうからな」

「ああ、分かった」


俺はバルガンの想いが詰まった一本を【アイテムボックス】に格納し、食料や水といった最低限の装備を整えると、一人で囁きの森へと向かった。


森の入り口は、どこにでもあるような普通の森だった。

だが、奥へ奥へと進むにつれて、その雰囲気は一変していく。

木々の幹には、淡い光を放つ苔がびっしりと生え、足元のキノコは、まるで呼吸をするかのように明滅を繰り返している。空気そのものが、微かな魔力を帯びてピリピリと肌を刺すようだった。


(これが、制御しきれない魔力の影響……)


噂が真実であることを、この森が証明していた。

情報屋に教えられた通り、沢の音を頼りにさらに進む。やがて、二筋の滝が流れ落ちる、開けた場所にたどり着いた。


そして、そこに、それはあった。

滝のほとりにひっそりと佇む、小さな庵。屋根は苔むし、壁には蔦が絡まっているが、不思議と荒れた印象はない。むしろ、まるでおとぎ話に出てくるかのような、幻想的で静かな場所だった。

庵の前には小さな畑があり、そこでは見たこともない色とりどりの植物が、淡い光を放ちながら揺れている。


その畑を、一心不乱に世話している人影が一つ。

腰まで届くほどの長い黒髪。華奢な体つき。歳は、俺と同じくらいだろうか。

あれが、『呪いのエンチャンター』。


彼女は、噂から想像するような、禍々しい魔女とは似ても似つかない、ただの物静かな少女にしか見えなかった。

俺は意を決し、茂みから一歩踏み出す。


「あの……すみません」


俺の声に、少女の肩がびくりと跳ねた。

そして、怯えたような、それでいて透き通るような瞳で、ゆっくりとこちらを振り返った。

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