表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

15/88

第十五話:ギルドへの帰還

俺は、討伐の証拠となる鎧トカゲの亡骸から、魔石と砕けた甲羅のめぼしい部分を回収した。さすがに三体分の素材はかなりの量と重量になったが、【アイテムボックス】を持つ俺にとっては関係ない。全ての戦利品を瞬時に格納し、俺は石切り場を後にした。


街への帰り道は、来た時とは全く違う心持ちだった。

胸の内にあったのは、確かな自信と、未来への高揚感。俺の戦い方は間違っていなかった。バルガンの技術は本物だった。俺たちは、やれる。


日が傾き始めた頃、俺は冒険者ギルドの扉を再び開けた。

中は一日の依頼を終えた冒険者たちで賑わっており、酒を酌み交わす者、仲間と戦果を語らう者で溢れている。


俺の姿に気づいた数人が、ひそひそと何かを囁き始めた。その中には、俺が出ていく時に嘲笑っていた者たちの顔も見える。盗賊のジンも、仲間と酒を飲みながら、こちらをニヤニヤと見ていた。


(ああ、帰ってきたか、あのポーター。どうせ尻尾を巻いて逃げてきたんだろう)


彼らの視線が、そう語っていた。

俺はそんな彼らを完全に無視して、まっすぐ受付カウンターへと向かう。対応してくれたのは、またしても同じ職員の女性だった。彼女は俺の姿を見ると、驚きと安堵が入り混じった表情を浮かべた。


「アルクさん! ご無事だったのですね! やはり、あの依頼は無謀でしたか……?」

「いや」


俺は彼女の気遣いを、短い言葉で遮る。


「依頼完了の報告に来た」


「え……?」


彼女の思考が、一瞬停止するのが分かった。

周りで聞き耳を立てていた冒険者たちの間にも、失笑が漏れる。


「完了報告だあ? 冗談だろ」

「一体、何言ってんだあいつ……」


俺はそんな声を背中で聞きながら、【アイテムボックス】から討伐の証拠をカウンターの上に取り出した。


ガラガラガラッ! ドサッ!


まず、山のように積み上げられた、砕けた甲羅の破片。

そして、その上に、三匹分の心臓から取り出した、ずしりと重い魔石を三つ置く。

常識では考えられない量の討伐証拠が、カウンターに山を築いた。


その瞬間、ギルドの喧騒が、まるで時間が止められたかのように、ぴたりと静まり返った。


誰もが、信じられないものを見る目で、カウンターの上の山と俺の顔を交互に見ている。

特に、盗賊のジンの顔は傑作だった。彼は手に持っていたジョッキを落としそうになりながら、口を間抜けに開けて固まっている。


あの硬い甲羅が、なぜこんなにズタズタに?

そもそも、ポーター一人で、どうやって三匹も?

そして、このおびただしい量の素材を、どうやってここまで運んできた?


全ての冒険者の心に浮かんだであろう疑問符が、静寂に満ちたギルドホールに充満していた。


「……討伐、確認しました。依頼、達成クエスト・コンプリートです」


呆然としながらも、職員さんがようやく絞り出した声が、その静寂を破った。


俺は分厚い報酬袋を受け取ると、未だ呆然としている冒-険者たちに背を向ける。

もう、俺を嘲る者は誰もいなかった。

あるのは、畏怖と、驚愕と、そして理解不能なものを見る目だけ。


ギルドを出た俺の口元に、満足の笑みが浮かんだのは言うまでもない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ