第十五話:ギルドへの帰還
俺は、討伐の証拠となる鎧トカゲの亡骸から、魔石と砕けた甲羅のめぼしい部分を回収した。さすがに三体分の素材はかなりの量と重量になったが、【アイテムボックス】を持つ俺にとっては関係ない。全ての戦利品を瞬時に格納し、俺は石切り場を後にした。
街への帰り道は、来た時とは全く違う心持ちだった。
胸の内にあったのは、確かな自信と、未来への高揚感。俺の戦い方は間違っていなかった。バルガンの技術は本物だった。俺たちは、やれる。
日が傾き始めた頃、俺は冒険者ギルドの扉を再び開けた。
中は一日の依頼を終えた冒険者たちで賑わっており、酒を酌み交わす者、仲間と戦果を語らう者で溢れている。
俺の姿に気づいた数人が、ひそひそと何かを囁き始めた。その中には、俺が出ていく時に嘲笑っていた者たちの顔も見える。盗賊のジンも、仲間と酒を飲みながら、こちらをニヤニヤと見ていた。
(ああ、帰ってきたか、あのポーター。どうせ尻尾を巻いて逃げてきたんだろう)
彼らの視線が、そう語っていた。
俺はそんな彼らを完全に無視して、まっすぐ受付カウンターへと向かう。対応してくれたのは、またしても同じ職員の女性だった。彼女は俺の姿を見ると、驚きと安堵が入り混じった表情を浮かべた。
「アルクさん! ご無事だったのですね! やはり、あの依頼は無謀でしたか……?」
「いや」
俺は彼女の気遣いを、短い言葉で遮る。
「依頼完了の報告に来た」
「え……?」
彼女の思考が、一瞬停止するのが分かった。
周りで聞き耳を立てていた冒険者たちの間にも、失笑が漏れる。
「完了報告だあ? 冗談だろ」
「一体、何言ってんだあいつ……」
俺はそんな声を背中で聞きながら、【アイテムボックス】から討伐の証拠をカウンターの上に取り出した。
ガラガラガラッ! ドサッ!
まず、山のように積み上げられた、砕けた甲羅の破片。
そして、その上に、三匹分の心臓から取り出した、ずしりと重い魔石を三つ置く。
常識では考えられない量の討伐証拠が、カウンターに山を築いた。
その瞬間、ギルドの喧騒が、まるで時間が止められたかのように、ぴたりと静まり返った。
誰もが、信じられないものを見る目で、カウンターの上の山と俺の顔を交互に見ている。
特に、盗賊のジンの顔は傑作だった。彼は手に持っていたジョッキを落としそうになりながら、口を間抜けに開けて固まっている。
あの硬い甲羅が、なぜこんなにズタズタに?
そもそも、ポーター一人で、どうやって三匹も?
そして、このおびただしい量の素材を、どうやってここまで運んできた?
全ての冒険者の心に浮かんだであろう疑問符が、静寂に満ちたギルドホールに充満していた。
「……討伐、確認しました。依頼、達成です」
呆然としながらも、職員さんがようやく絞り出した声が、その静寂を破った。
俺は分厚い報酬袋を受け取ると、未だ呆然としている冒-険者たちに背を向ける。
もう、俺を嘲る者は誰もいなかった。
あるのは、畏怖と、驚愕と、そして理解不能なものを見る目だけ。
ギルドを出た俺の口元に、満足の笑みが浮かんだのは言うまでもない。