第十四話:砕け散る甲羅
俺は狙いを定め、全ての意識を一点に集中させる。
アイテムボックスの中の『ブレイカー・ボルト』に、俺の意志が繋がる。
「―――ッ!」
声にならない気合と共に、右腕を突き出す。
手のひらの前の空間が歪み、黒い閃光が解き放たれた。
ズゥンッ!!!
重低音の発射音が石切り場に響き渡る。
音速に迫る勢いで射出されたボルトは、日光浴をしていた一番大きな鎧トカゲの背中――その最も分厚い甲羅のど真ん中に、寸分の狂いもなく着弾した。
次の瞬間。
**バキィィィンッ!!**
ガラスが砕け散るような、甲高い破壊音が鳴り響いた。
信じられない光景だった。数多の剣士たちの心を折ってきた鋼鉄の甲羅が、まるで陶器のように、衝撃点を中心に放射状の亀裂を走らせ、粉々に砕け散ったのだ。
ボルトはその勢いのままに胴体を貫通し、鎧トカゲは悲鳴を上げる間もなく、一度びくんと痙攣しただけで絶命した。
「……よし!」
思わず、勝利の確信が口をついて出る。
だが、余韻に浸っている暇はなかった。
「「シャアアアアッ!!」」
仲間がやられたことで、残りの二匹が瞬時に俺の存在を認識。太陽の熱で温まっていた体を活性化させ、恐るべき速さで突進してくる。
俺は冷静に二匹の動きを見据え、後方へ跳んで距離を取る。同時に、二本目のボルトを意識の中に呼び出した。
一匹目が目前に迫り、大きく口を開けて噛みつこうとしてくる。俺はその突進を紙一重で横にかわし、すれ違いざまに、その後ろにいた二匹目へと狙いを定めた。
「二匹目!」
再び放たれる黒い閃光。
二匹目の鎧トカゲも、一匹目と全く同じ末路を辿った。背中の甲羅を粉砕され、地面にその重い体を沈める。
残りは、一匹。
だが、そいつはすでに俺の懐にまで迫っていた!
近すぎる。一度距離を取らなければ――いや、その必要はない。
俺は最後のボルトではなく、ミノタウロスとの戦いで使った、あの古い鉄の盾をアイテムボックスから『取り出す』。ただし、射出するのではない。俺の目の前、トカゲの突進経路上に、だ。
ドンッ!と鈍い音を立てて、盾が唐突に空間から出現する。
トカゲはそれを避けきれず、盾に激突して体勢を崩した。
その一瞬の隙で、十分だった。
「終わりだ!」
体勢を崩した鎧トカゲの頭部に、俺は空の手を突きつける。
そして、最後の『ブレイカー・ボルト』を、ゼロ距離で射出した。
轟音。
三匹目の鎧トカゲの頭部は、甲羅ごと木っ端微塵に吹き飛んだ。
静寂が、再び石切り場を支配する。
俺は、荒い息をつきながら、三体の鎧トカゲの亡骸を見下ろした。
あれほど冒険者たちを苦しめた難敵が、ものの数分で沈黙している。
足元に転がる、砕け散った甲羅の欠片。
これが、俺とバルガンの力。
ギルドで俺を嘲笑ったジンたちの顔が、脳裏に浮かんだ。
(どうだ、見たか)
胸のすくような達成感が、全身を駆け巡っていた。