第十三話:西の石切り場
街の西門を抜け、石切り場へと続く街道を、俺は一人で歩いていた。
パーティーを組んでいた頃は、常に誰かの話し声や足音が聞こえていた。だが今は、風の音と自分の足音だけが耳に届く。それは寂しさではなく、心地よい自由さと、全てが自分一人の肩にかかっているという程よい緊張感を与えてくれた。
【アイテムボックス】の中には、バルガンが急いで作ってくれた三本の『ブレイカー・ボルト』が格納されている。物理的な重さはない。だが、その存在は、どんな武具よりも確かな自信を俺に与えてくれていた。
半刻ほど歩くと、道の脇に巨大な岩肌が剥き出しになった、広大な窪地が見えてきた。西の石切り場だ。
しかし、現場は不気味なほどに静まり返っていた。使いかけの道具や、資材を積んだままの荷車が放置されている。まるで、ここだけ時間が止まってしまったかのようだ。
俺は注意深く、石切り場の内部へと足を踏み入れる。
地面をよく見ると、夥しい数の傷跡が残っていた。岩に突き刺さったまま折れた矢、刃こぼれどころか、半ばから砕けたロングソードの残骸。その全てが、鎧トカゲの甲羅がいかに常識外れの硬さであるかを物語っている。
(……これだけの武器を壊したのか)
生半可な攻撃では、本当に傷一つつけられないだろう。だが、それこそが俺がここに来た理由だ。
俺は足音を忍ばせ、トカゲの痕跡を探す。岩場の影に隠れながら進んでいくと、開けた場所で、数匹の影が日光浴をしているのが見えた。
あれだ。鎧トカゲ。
全長は2メートルほど。ワニに似た体躯だが、その背中は、鈍い金属光沢を放つ幾重もの甲羅でびっしりと覆われている。まるで、自然が生み出した重戦車だ。数は、三匹。
幸い、まだこちらには気づいていない。
俺は近くの岩陰に身を隠し、呼吸を整える。狙うは、中央で一番図体の大きい一匹。
【アイテムボックス】から、一本の『ブレイカー・ボルト』を意識の中に呼び出す。
心臓の鼓動が、少しだけ速くなる。
これは、ミノタウロスとの死闘とは違う。俺が、俺の意志で選んだ、最初の戦い。
俺とバルガンの力が、本物かどうかを試す試金石だ。
俺はゆっくりと立ち上がり、空の右手を、獲物に向けて構えた。
最初の一射。
それで、全てが決まる。