第十二話:最初の依頼
「クハハハ! 見ろ、このクレーターを! 芸術的ですらあるわ!」
工房の壁に穿たれた新たな破壊の痕を、バルガンは満足げに眺めていた。その顔は、自らの作品が最高の形でその性能を証明したことへの喜びに満ちている。
だが、彼はすぐに我に返ると、職人としての現実的な顔つきで俺に向き直った。
「最高の『弾丸』ができた……だがアルク、これ一本でおしまいじゃあないだろう。量産するには、それなりに上等な鉄と石炭がいる。タダじゃねえぞ」
「分かってる。だから稼ぎに行く」
俺は力強く頷いた。ミノタウロスの素材を売った金はまだあるが、今後の活動資金を考えれば、いつまでもつか分からない。俺たちのこの戦い方は、文字通り「弾」に金を食うのだ。
「いくつか『ブレイカー・ボルト』の予備を作っておいてくれ。すぐに戻る」
「おう、任せとけ!」
俺はバルガンに背を向け、再び冒険者ギルドへと向かった。
ギルドの扉を開けると、昼時ということもあってか、中は多くの冒険者でごった返していた。俺の姿を認めると、いくつかのひそひそ話が聞こえてくるが、もう気にはならない。俺はまっすぐに依頼掲示板へと向かった。
今の俺は、ソロで登録したばかりの最低ランクだ。高ランクの依頼は受けられない。
ゴブリン討伐、薬草採取……手堅い依頼が並ぶ中、俺はある一枚の依頼書に目を留めた。
**『緊急討伐依頼:西の石切り場の鎧トカゲ(アーマーリザード)』**
依頼主は石切り場の組合。鎧のように硬い甲羅を持つトカゲの魔物が住み着き、作業ができず困っているらしい。特記事項にはこうあった。
**『注意:対象の甲羅は鋼鉄のように硬く、並の剣や矢では歯が立たない。複数のCランクパーティーが、武器の損傷により撤退済み』**
これだ。
剣や矢が通じない、硬い敵。
俺たちの『ブレイカー・ボルト』の性能を試すには、これ以上ない相手じゃないか。報酬も、その難易度からか、新人向けの依頼にしては破格だった。
俺はその依頼書を剥がし、受付カウンターへ持っていく。
対応してくれたのは、以前と同じ職員の女性だった。
「アルクさん……この依頼、本気ですか? 歴戦のパーティーですら、歯が立たなかった相手ですよ?」
「大丈夫だ。俺のやり方に合っている」
俺が自信を持ってそう言うと、彼女は何かを察したのか、それ以上は引き止めずに依頼の受理手続きを進めてくれた。
手続きを終えてギルドを出ようとした時、聞き覚えのある嫌な声が耳に入った。
「おい見ろよ、あのポーターの馬鹿。鎧トカゲに挑戦する気だぜ」
「赤き剣」にいた、盗賊のジンだ。彼は周りの冒険者たちに、俺を指差して嘲笑っていた。
「どうせ何もできずに泣いて帰ってくるのがオチだ。……まあ、帰ってこれれば、の話だがな!」
下品な笑い声が背中に突き刺さる。
俺は振り返らず、口の端に笑みを浮かべた。
――見てろよ。
お前たちが傷一つつけられなかったその甲羅、俺が粉々に砕いてきてやる。
決意を新たに、俺は最初の獲物が待つ石切り場へと、力強く足を踏み出した。