第十一話:最高の「弾丸」
「よし、決まりだ! 早速作るぞ、小僧!」
興奮冷めやらぬバルガンは、工房の棚から様々な金属の塊を引っ張り出し始めた。その目は、先ほどまでの頑固な職人のものではなく、新しい玩具を前にした少年のようにキラキラと輝いている。
「なあアルク! お前のそのスキル、射出する時に何か抵抗みてえなもんはあるのか? 重いもんの方が威力は出るか? 先が尖ってた方が安定するか?」
矢継ぎ早に問いかけながら、バルガンは設計図を羊皮紙に描きなぐる。彼の専門的な質問に、俺は実戦を思い出しながら必死に答えた。ミノタウロスと戦った時の、石ころとダガーの飛び方の違い。重い盾を射出した時の手応え。
俺の拙い説明を、バルガンは驚くべき正確さで汲み取り、設計図に落とし込んでいく。彼の職人としての経験と知識が、俺の未知数のスキルと融合していくようだった。
そして、一つの答えにたどり着いた。
「これだ……! まずは試作品として、これを作ってみるぞ!」
バルガンが示したのは、柄のない巨大な杭のようなデザインだった。先端は鋭く尖っているが、後方は重量を稼ぐために太くなっている。空気抵抗を極限まで減らし、一点に全ての破壊力を集中させるための、まさに「弾丸」と呼ぶにふさわしい形状だ。
そこからのバルガンの仕事は、圧巻の一言だった。
炉の火力を最大まで上げ、選りすぐりの鋼を叩き、鍛え、形成していく。飛び散る火花も、噴き出す汗も意に介さず、ただ目の前の鉄塊に魂を注ぎ込む。その姿は、気難しい職人というより、神聖な儀式を執り行う神官のようだった。
数時間後。
「できたぞ、アルク!」
バルガンが焼き入れを終えたそれを、誇らしげに掲げた。
全長50センチほどの、黒光りする鉄の杭。装飾の一切を排した、ただ貫き、砕くためだけに存在する無骨な塊。俺はそれを受け取ると、ずしりとした心地よい重みに笑みを浮かべた。
「早速、試してみよう」
「おう!」
俺たちは再び工房の奥の壁に向き合う。
俺は完成したばかりの杭――バルガンが**『ブレイカー・ボルト』**と名付けたそれに触れる。ボルトは俺の手からふっと消え、【アイテムボックス】の中へと格納された。
今、俺の手の中は空だ。
だが、意識の中には、確かに『ブレイカー・ボルト』の存在がある。
俺は空の手を壁に向け、狙いを定める。そして、アイテムボックス内の「弾丸」を、出口である手のひらの前の空間に――射出する!
ズゥンッ!!!
先ほどの鉄屑とは比べ物にならない、腹の底に響くような重い発射音。
射出された『ブレイカー・ボルト』は、黒い閃光となって空間を走り――
**ゴッッッッッッ!!!**
壁に命中した瞬間、先ほどとは比較にならない大轟音と共に、石壁そのものが大きく陥没した。突き刺さったボルトは、設計通り衝撃に耐えきれず砕け散っていたが、その威力は絶大だった。
「……すげえ……」
「ククク……ハッハッハッハ! 見たか、アルク! これが俺の、いや、俺たちの力だ!」
壁に穿たれた巨大なクレーターを見て、バルガンは腹を抱えて大笑いした。
俺も、自分の手の中に生まれた、とんでもない力の奔流に打ち震えていた。
これは、ただの武器じゃない。
俺とバルガン、二人だからこそ生み出せた、唯一無二の切り札だ。