最終話:ただいま
魔大陸から生還した俺たちを、岸壁で待っていたイザベラは、その目を見開いて、やがて腹を抱えて大笑いした。
「本当に、帰ってきやがったよ、この化け物ども!」
彼女の船は、俺たちを乗せて、再び故郷の大陸へと帆を上げた。
帰りの航海は、驚くほどに穏やかだった。まるで、世界そのものが、俺たちの帰還を祝福しているかのようだった。
王都に、英雄たちが帰還したという報せは、瞬く間に国中を駆け巡った。
俺たちが王都の門をくぐった日、そこには、俺たちを送り出してくれた、全ての人々が待っていた。
「―――おかえりなさい、アルクさん!!」
その声に顔を上げると、そこには、エレオノーラが、ギルドマスターが、そして、俺たちが王都で出会った、全ての人々が、涙と笑顔で、俺たちを迎えてくれた。
国王陛下までもが、城壁の上から、俺たちに手を振っている。
俺たちは、王都を、そして、この世界を、確かに守り抜いたのだ。
数日後。
再び、俺たちは国王の御前に召された。
国王は、俺たちに、公爵位という、この国で最も高い地位と、望む限りの富を与えようとしてくれた。
だが、俺は、その申し出を、静かに、しかし、きっぱりと断った。
「陛下。俺たちが望むのは、地位や名誉ではありません。ただ、この平和な世界で、俺たちらしく、生きていく自由だけです」
俺の隣で、バルガンも、リリアも、誇らしげに頷いている。
国王は、俺たちの顔をしばらく見つめた後、深く、そして、穏やかに、微笑んだ。
「……そうか。それこそが、汝らが、真の『英雄』たる所以だな。よかろう。汝らの望むがままに、生きるがよい」
俺たちの、本当に、本当に、最後の戦いは終わった。
それから、一年。
王都の片隅、かつて『ブレイカーズ』の拠点だったあの工房は、今、王都で最も人気のある、不思議な工房になっていた。
工房の主、バルガンは、もう兵器は作っていない。
彼は、旧神の技術と、ドワーフの知恵を、全て、人々を幸せにするために注ぎ込んでいた。
決して壊れない農具。子供たちが安全に遊べる、魔法仕掛けの玩具。彼の作る道具は、人々の暮らしを、豊かに、そして、笑顔にしていた。
工房の二階に住む、リリア。
彼女は、もう『星の意志』をその身に宿してはいない。あの戦いの後、星の意志は、彼女に感謝を告げると、安らかな眠りについたという。
彼女は今、学園の教授として、子供たちに魔法の楽しさを教えながら、工房の庭で、たくさんの薬草や花を育てている。彼女の『祝福』を受けた花は、どんな病も癒す、奇跡の花として、人々を助けていた。
そして、俺は。
俺は、アルク・ブレイカー子爵ではない。
ただの、アルクだ。
俺は、毎朝、工房馬車(今はもう、ただの配達用の馬車だ)に、荷物を積み込む。
バルガンが作った新しい道具。リリアが育てた、色とりどりの花束。
俺の【アイテムボックス】は、もはや弾丸ではなく、そうした、ささやかな希望で、満たされている。
「おーい、アルク! 頼んだぜ! 今日は、西の村までだ!」
「アルクさん、これ、王宮病院にいる子供たちに、届けてあげてください!」
「―――おう、任せとけ!」
俺は、アイテムボックスに、仲間たちの想いを詰め込むと、馬車の運転席に飛び乗った。
青空の下、俺は、世界で一番、幸せな『ポーター』として、今日も、大切な荷物を、街から街へと届ける。
かつて、俺たちは『ブレイカーズ(破壊者)』と呼ばれた。
だが、俺たちが、命を賭けて守り抜いた、この平和な世界で。
俺たちは、今、新しいものを創り出す、『メイカーズ(創造者)』として、生きている。
俺たちの冒険の物語は、ここで終わる。
だが、俺たち三人の、温かく、ささやかな日常の物語は、まだ、始まったばかりだ。




