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第百三話:世界の墓場

『嵐喰らい(テンペスト・イーター)』は、俺の腕から放たれた瞬間、一条の白い光となって、雷雲の渦の中心へと、吸い込まれるように突き進んでいった。

それは、俺たち三人と、この船のクルー全員の、そして、リリアを通じて繋がった、この星自身の祈りを乗せた一撃だった。


光が、渦の中心に到達した、その瞬間。

耳を劈くような轟音も、世界を揺るがすような爆発も、起こらなかった。


ただ、一瞬。

世界から、全ての音が、消えた。


吹き荒れていた風が止み、叩きつけていた雨が宙に静止し、山のようにそびえ立っていた波が、その形を保ったまま、凍りついたかのように動きを止めた。

イザベラの船は、その巨大な波の頂上で、奇跡的なバランスを保って静止している。


そして、次の瞬間。

嵐の『核』となっていた雷雲の渦が、まるで、力尽きた心臓のように、その鼓動を止めた。

渦は、急速にその力を失い、内側へと収縮していく。

紫色の雷が消え、風が止み、凍りついていた波が、穏やかなうねりとなって、海面へと戻っていく。


『永遠の嵐』は、消滅した。

リリアの『祈り』を込めたバルガンの『弾丸』が、『影』が張った、この星を拒絶する結界を、完全に破壊したのだ。


「……おいおい……冗談だろ……」


マストの上から聞こえる、イザベラの、呆然とした声。

彼女だけでなく、甲板にいた全ての船員たちが、今起きた奇跡を信じられないといった顔で、静かになった海と空を、ただ見上げていた。


「アルクさん、バルガンさん……見てください」


リリアの、震える声に、俺たちは、前を見た。

嵐という、厚いカーテンが取り払われた、その先に。

これまで、何人たりとも寄せ付けなかった、禁忌の大陸が、その全貌を現していた。


そこは、緑も、水も、光も、一切存在しない、黒い大地だった。

空は、不吉な暗赤色に染まり、大地には、天を突くかのような、禍々しい黒い水晶の柱が、無数に突き刺さっている。

それは、俺たちが、『星の記憶』の中で見た、あの絶望の未来の光景、そのものだった。


「……ここが……『魔大陸』……」


バルガンが、ゴクリと喉を鳴らす。

世界の墓場。神々に敗れた魔族たちが、封じ込められたという土地。

リリアが、『星の意志』から感じ取っていた、あの『影』が、この世界に最初に降り立とうとしている、最終決戦の地。


「……へっ。最高に、イカれた場所じゃないか」


イザベラが、いつもの不敵な笑みを取り戻し、舵を握り直した。


「野郎ども! 錨を上げろ! この海の、最後の秘密を、見届けに行くぞ!」


俺たちを乗せた船は、静かになった、しかし、どこまでも不気味な暗い海を、ゆっくりと、その黒い大陸の岸壁へと、進み始めた。

俺は、アイテムボックスに手を当て、仲間たちの顔を見る。

俺たちの、本当の最後の戦いが、今、始まる。

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