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第百二話:永遠の嵐

イザベラの船は、これまでのどの航海よりも速く、そして力強く、最後の魔境へと突き進んでいた。

だが、魔大陸が近づくにつれて、穏やかだった海は、その表情を一変させた。


空は、鉛色の雲に覆われ、太陽の光は、もはや一筋も届かない。

風は、泣き叫ぶような音を立てて吹き荒れ、海面には、山のように巨大な波が、次々と立ち上がっては、俺たちの船に叩きつけられる。


「――来たぞ、おチビ共! しかと掴まってな!」


嵐の中で、マストの頂上にいたイザベラの、楽しげですらある、しかし緊迫した声が響き渡った。

「これが、船乗りどもが恐れる、『永遠の嵐』だ!」


次の瞬間、俺たちは、世界が反転したかのような、凄まじい衝撃に襲われた。

下からは、船底を砕かんとするほどの、巨大な渦潮が巻き起こり、上からは、天が裂けたかのように、全てを洗い流す豪雨と、紫色の雷が、休むことなく降り注ぐ。


「きゃあっ!」

「チッ! こりゃあ、ただの嵐じゃねえ!」


船倉に固定された工房馬車の中で、俺たちは、必死に体勢をこらえる。

バルガンの言う通りだった。リリアが、真っ青な顔で、しかし、その瞳に『星の意志』を宿して、外の気配を探っていた。


「……ダメです……!」と、彼女が叫んだ。「これは、自然現象じゃありません! 大陸そのものが、この星が、拒絶している……! 『影』の意志が、この海域全体を、巨大な『拒絶の結界』に変えているんです!」


イザベラと、彼女の屈強な船員たちが、必死に船を操る。だが、悪意を持って襲いかかってくる自然の猛威の前には、彼らの卓越した技術も、もはや限界だった。

ギィィ……と、船の竜骨が、悲鳴のようなきしみ音を立てている。

このままでは、魔大陸にたどり着く前に、俺たちは、この海の藻屑となる。


「――バルガン、リリア!」


俺は、決断した。

「このけっかいを、壊す。でなければ、道は拓けない」


俺の言葉に、二人は、即座に頷いた。

「リリア! 結界の『核』は、どこだ!」

「……見えます! あの、空の、一番荒れ狂っている場所……! 全ての雷が、集まっては、生まれている、巨大な渦の中心……そこです!」


「バルガン! 最高の『弾丸』を!」

「言われなくても、分かってるわ!」


バルガンは、工房馬車に積んでいた、彼の最後の切り札を取り出した。それは、旧神の知識と、彼の技術の全てを注ぎ込んだ、一本の巨大な杭。魔力を霧散させる『魔祓い石』と、旧神の鍛冶技術を融合させた、対魔法結界用の最終兵器。


「――『嵐喰らい(テンペスト・イーター)』だ! 持ってけ、アルク!」


俺は、その杭をアイテムボックスに格納する。

リリアが、その俺の腕に、そっと手を触れた。彼女の、星の意志と共鳴した、全ての魔力が、その杭へと注ぎ込まれていく。

それは、もはや付与魔法ではない。運命に抗うという、この星自身の、『祈り』そのものだった。


俺は、弾丸を装填したまま、嵐が吹き荒れる甲板へと飛び出した。

「イザベラ! あの渦の中心を、射程に捉えさせろ!」

「―――任せなァ!」


イザベラは、俺の意図を察し、船の舵を、自殺行為とも言える、巨大な波の壁へと向けた。

船は、垂直に近い角度で波を駆け上がり、そして、その頂点に達した、一瞬。

世界が、スローモーションになる。

目の前に、リリアが示した、巨大な雷雲の渦が、その禍々しい姿を現した。


俺は、その中心、ただ一点だけを見据え、俺たちの、そして、この星の、全ての希望を乗せて、最後の『弾丸』を、射出した。

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