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第百一話:最後の大陸

龍の社を後にした俺たちの足取りには、迷いはなかった。

絶望の未来。世界の終焉。

それを知ったからこそ、俺たちの進むべき道は、より一層、明確になった。


工房馬車『ブレイカー・ベース』は、再び山を下り、俺たちが来た港町シラクモへと向かう。

道中、俺たち三人の間には、言葉は少なかった。

だが、その沈黙は、絶望のそれではない。最後の戦いへと臨む、戦士たちの、静かな決意に満ちたものだった。


バルガンは、工房馬車の中で、炉の火を最大にし、旧神の知識と、龍の社で得たインスピレーションを元に、休むことなく槌を振るい続けていた。

あの『影』に、運命に、一矢報いるための、彼にしか作れない、新たな『弾丸』を。


リリアは、馬車の窓から、移り変わる景色を静かに見つめていた。

彼女の瞳には、時折、星の記憶が映し出す、未来の断片がよぎっているようだった。だが、彼女は、もうそれに怯えはしない。ただ、その運命の奔流の中で、俺たちが掴むべき、一筋の光を探し続けていた。


そして俺は、ひたすらに、己のスキルと向き合い続けた。

【アイテムボックス】。

仲間たちの想いを、願いを、力を『受け取り』、世界に『届ける』ための、俺の意志。

次なる戦いでは、俺は、これまでにないほどの、精密で、そして、強大な『意志の力』を、要求されることになるだろう。


数週間後、俺たちは、再び港町シラクモへと戻ってきた。

俺たちが真っ先に向かったのは、あの豪快な女船長、イザベラの船だった。


「――なんだい、英雄様たち。もうこの国には飽きたのかい?」


甲板で、部下たちに指示を飛ばしていたイザベラは、俺たちを見ると、太陽のような笑顔でそう言った。

俺は、彼女に、魔法の羅針盤を広げて見せた。

そして、最後に残された、点滅する光点を、指さす。


「あんたの船で、ここへ連れて行ってほしい」


その瞬間、イザベラの笑顔が、初めて、凍りついた。

彼女の視線は、俺が指し示した、地図の遥か南東――いかなる海図にも、その正確な姿が記されていない、禁忌の大陸に向けられていた。


「……『魔大陸』。あんたたち、正気かい」

彼女の声から、いつもの陽気さが消えていた。

「あそこは、世界の墓場だ。古の時代、神々が、敗れた魔族たちを封じ込めたという、呪われた土地。あそこを囲む海域は、『永遠の嵐』が吹き荒れ、生きて通過できた船乗りは、一人もいない。あんたたちを、死なせに行くようなもんだ」


「それでも、行かなきゃならない」

俺は、彼女の目を、真っ直ぐに見返した。


「そこに、俺たちの最後の旅の目的がある。そして、あんたが言う、その『永遠の嵐』こそが、俺たちが戦うべき、本当の敵が張った、結界だ」


俺の言葉に、イザベラは、しばらくの間、じっと俺の瞳の奥を、探るように見つめていた。

やがて、彼女は、ふっと、息を吐いた。


「……あーあ。英雄ってのは、どうしてこう、死にたがりばっかりなんだろうね」

彼女は、いつもの不敵な笑みを、その口元に蘇らせた。


「いいだろう! あんたたちの、そのイカれた旅の、最後まで、付き合ってやるよ! 『ブレイカーズ』が、世界の運命にケンカを売るってんなら、あたしが、そのための船を出さねえで、何が海賊うみの女だ!」


こうして、俺たちは、再び、最強の船長キャプテンという仲間を得た。

俺たちの『ブレイカー-・ベース』は、再び彼女の船の貨物倉に、厳重に固定される。


数日後。

港町の人々の、不安と、祈りの入り混じった視線に見送られ、俺たちの船は、ついに、最後の魔境へと、その帆を上げた。

目指すは、世界の果て、魔大陸。

運命を、砕くために。

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