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第百話:運命を砕く者たち

俺たちは、大樹の胎内から、再び龍の社の境内へと戻っていた。

あそこで見た、あまりにも鮮明な絶望の未来。そのビジョンは、俺たちの網膜に、そして魂に、深く焼き付いて離れない。


「……リリア。お前、大丈夫か」


俺は、彼女の顔を覗き込んだ。あの光と融合した彼女は、今、何を思い、何を感じているのか。

リLリアは、ゆっくりと瞬きをすると、俺とバルガンを交互に見つめ、そして、ふっと、穏やかに微笑んだ。


「はい。大丈夫です」

その声には、もう何の迷いも、恐れもなかった。


「わたしの中に、『星の意志』があります。それは、悲鳴のようでした。あの『影』に喰われるくらいなら、いっそ、わたしたちの世界を終わらせてほしい、と願うほどの、絶望の叫びでした」

「……なんだと……」

「でも」とリリアは続ける。「わたしが、アルクさんとバルガンさんを信じる『心』を伝えたら……星の意志は、変わりました。『戦いたい』と。わたしたちと共に、あの絶望の未来と、戦いたい、と」


彼女が受け取ったのは、ただの予言や力ではない。

この星そのものの、諦めと、そして、最後の希望だった。

リリアは、もはやただの付与魔術師ではない。星の意志を代行し、運命に抗うための『鍵』そのものとなったのだ。


俺たちは、静かに社を後にした。

俺たちが石段を降りきると、背後で、社の扉が、再び、永遠の眠りにつくかのように、重々しい音を立てて閉ざされた。


工房馬車へと戻る道すがら、バルガンが、ずっと黙り込んでいた重い口を開いた。


「……くだらねえ」

「バルガン?」

「『影』だの、『運命』だの、俺たちドワーフにとっちゃ、酒の肴にもならねえ、馬鹿げた与太話だ」


彼は、工房馬車の頑丈な扉を、拳で強く叩いた。


「だがな。俺は、確かに見た。あの未来で、俺の最高傑作が、何一つ守れずに、ただの鉄屑になっていく様を。そして、お前たちが、絶望に泣き崩れる顔を」


バルガンは、俺たちの目を、真っ直ぐに見た。

その瞳には、旧神の大工房でさえ見せなかった、職人としての、最大級の怒りが燃え盛っていた。


「―――冗談じゃねえ。俺の(こども)たちが、あんな未来で終わることを、この俺が、許すと思うなよ」


そうだ。

俺たちは、絶望などしていない。

俺たち『ブレイカーズ』は、常識を、困難を、そして、立ちはだかる全ての壁を、『破壊』するために、ここにいる。

それが、運命という名の、絶対的な壁だとしても。


「……ああ、そうだな」

俺は、笑った。

「俺たちの神の名は、『仲間ブレイカーズ』だ。その俺たちが、俺たちの未来を、諦めてたまるか」


工房馬車が、再び、南へと走り出す。

山頂では、俺たちの決意を見届けたかのように、雲の切れ間から、一筋の龍の影が、天へと昇っていくのが見えた。


俺は、アイテムボックスから、魔法の羅針盤を取り出す。

三つ目の、そして、最後の光点。

それは、世界の果てとも言われる、未踏の『魔大陸』を指し示していた。


そこが、最後の遺産が眠る場所。

そして、星の記憶が示した、あの『影』が、この世界に干渉するために、最初に降り立とうとしている場所。

俺たちの、最終決戦の地だ。


俺は、リリアとバルガンの顔を見る。

俺たちの顔に、もう、迷いはない。


「行こう。俺たちの未来を、掴み取りに」


俺たち三人を乗せた工房馬車は、世界の運命に抗うべく、最後の大陸へと、その舵を切った。

俺たちの、本当の最後の戦いが、今、始まったのだ。

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