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音楽創世記~音の開拓者たち~  作者: かつを
第1部:魂の源流編 ~ブルース、カントリー、そしてゴスペル~
8/70

ブラックミュージック は“ビジネス”になるか? 第1話:売れないレコード

作者のかつをです。

 

本日より、第二章「レース・レコード創世記 ~黒人音楽は“ビジネス”になるか?~」の連載を開始します。

 

当たり前のように存在する「黒人音楽のレコード」。

しかしその最初の一枚が世に出るまでには、人種差別という大きな壁と一人の男の執念の物語がありました。

そのプロローグから、物語は始まります。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

2025年、東京。

 

スマートフォンの音楽アプリを開けば、そこは無限の音楽図書館だ。

ブルース、ジャズ、ソウル。

何百万という黒人アーティストたちの魂の歌が、指先一つで瞬時に再生される。

 

あまりにも当たり前になった、この光景。

 

しかし、ほんの百年前。

黒人の歌声がレコード盤に刻まれることなど、誰も想像すらしなかった時代があったことを知る者は少ない。

その分厚い壁に、たった一人で挑んだ不屈の男の物語を。

 

 

物語の始まりは、第一次世界大戦が終結した直後の1919年、アメリカ合衆国ニューヨーク。

「ティン・パン・アレー」と呼ばれる音楽出版社が軒を連ねる一角。

楽譜と野心、そして葉巻の煙が渦巻くこの場所で、一人の黒人男性が今日もまた分厚い扉を叩いていた。

 

彼の名はペリー・ブラッドフォード。

ソングライターでありバンドリーダーであり、そして何より燃えるような野心を持つ夢想家だった。

 

「また君か、ブラッドフォード。言ったはずだ、黒人の音楽は売れない、と」

 

白人の音楽出版社の役員は、うんざりした顔で彼が差し出した楽譜を押し返した。

 

当時のレコード産業は、完全に白人のための世界だった。

レコードを買うのは中流階級の白人。

レコードに録音されるのは、白人の歌手が歌う上品なポップスやオペラ。

 

ブルースやジャズといった黒人音楽は、南部の酒場やハーレムのダンスホールで鳴り響く、猥雑で記録する価値のないものと見なされていた。

 

しかしブラッドフォードには、見えていた。

彼ら白人が決して見ようとしない、巨大な市場が。

 

夜のハーレムを歩けば、そこには熱気があった。

ダンスホールは最新のジャズに熱狂する黒人たちで溢れかえっている。

彼らは自分たちの音楽に飢えていた。

自分たちのスターを待ち望んでいた。

 

「なぜ、彼らのためのレコードがないんだ?」

 

ブラッドフォードの胸には憤りと、そして巨大なビジネスチャンスへの確信が燃え上がっていた。

 

「黒人による、黒人のためのレコード。必ず、売れる」

 

誰もが不可能だと笑う中、彼の孤独な戦いが始まろうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

第二章、第一話いかがでしたでしょうか。

 

当時の黒人アーティストの曲がレコードになる場合でも、その歌はアル・ジョルソンのような「ブラックフェイス(顔を黒く塗った白人)」のスターが歌うのが普通でした。

黒人自身の声がそのまま記録されることは、ほとんどなかったのです。

 

さて、巨大な壁に挑むブラッドフォード。

彼は自らの夢を実現するための、一人の歌姫を見つけ出します。

 

次回、「クレイジー・ブルース」。

歴史を動かすことになる、一曲のブルースが誕生します。

 

ブックマークや評価で、新章のスタートを応援していただけると嬉しいです!

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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