ソウルミュージックとスタックス 第2話:ルーファス・トーマスの置き土産
作者のかつをです。
第2話をお届けします。
今回は、スタックス・レコードの、運命を、変える、きっかけとなった、父娘、ルーファス&カーラ・トーマスの、物語を、描きました。
一人の、ベテランDJの、人の好さが、歴史を、動かす、大きな、引き金となりました。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
スタックス・レコードは、設立当初、鳴かず飛ばずの状態が、続いていた。
録音した、レコードは、全く、売れない。
ジムと、エステルは、自分たちの、貯金を、切り崩しながら、なんとか、スタジオを、維持している、ありさまだった。
そんな、ある日のこと。
スタジオの、ドアを、一人の、黒人男性が、開けた。
彼の名は、ルーファス・トーマス。
メンフィスで、絶大な、人気を誇る、ラジオDJであり、そして、ブルース・シンガーでもあった。
彼は、かつて、サム・フィリップスの、サン・スタジオでも、録音を、経験している、この街の、音楽シーンの、重鎮だった。
「よう、ジム。新しい、スタジオを、始めたって、聞いたぜ」
彼は、地元の、アクセント丸出しの、気さくな、口調で、言った。
「たいした、もんだ。この、街で、俺たち、黒人の、ブルースを、録ってくれる、白人の、スタジオは、あんたんとこ、くらいのもんだ」
彼は、ジムに、一つの、提案を、持ちかけた。
自分の、新しい曲を、スタックスで、録音したい、と。
ジムにとって、それは、渡りに、船の、話だった。
ルーファスの、ネームバリューが、あれば、レコードも、売れるかもしれない。
セッションは、和やかな、雰囲気で、進んだ。
ルーファスの、ユーモアあふれる、ブルースは、スタジオに、明るい、笑い声を、もたらした。
そして、その、歴史的な、セッションの、最後に、ルーファスは、ジムに、こう、切り出した。
「なあ、ジム。俺の、娘の歌も、聴いてやっては、くれねえか?」
「君の、娘さん?」
「ああ。まだ、16の、ガキだが、なかなか、いい声を、してるんだ。俺との、デュエットで、一曲、どうだ?」
ジムは、正直、乗り気ではなかった。
プロの、セッションに、素人の、娘を、入れるなど、普通は、ありえない。
しかし、ルーファスの、顔を、立てないわけにはいかなかった。
スタジオに、連れてこられたのは、まだ、あどけなさの残る、ティーンエイジャーの、少女だった。
彼女の名は、カーラ・トーマス。
彼女は、父親の、大きな、背中の後ろに隠れ、恥ずかしそうに、俯いていた。
しかし、マイクの前に立ち、音楽が、始まった、瞬間。
彼女は、別人へと、変貌した。
その、小さな、身体から、放たれたのは、年齢に、そぐわない、驚くほど、ソウルフルで、表現力に、満ちた、歌声だった。
ジムと、エステルは、顔を、見合わせた。
この子は、本物だ。
その場で、録音された、父娘の、デュエット曲「'Cause I Love You」。
この曲は、メンフィスの、ローカル・チャートで、ヒットを記録し、瀕死の状態だった、スタックス・レコードに、最初の、成功と、そして、未来への、確かな、希望を、もたらした。
そして、何よりも、重要なこと。
この、一本の、レコードが、スタックス・スタジオの、扉を、さらに、大きく、開くことになる。
「あそこへ行けば、俺たちの、音楽を、正当に、扱ってくれる」
そんな、噂が、メンフィスの、黒人コミュニティの間に、静かに、しかし、確実に、広がっていったのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
カーラ・トーマスは、この後、「Gee Whiz (Look at His Eyes)」という、大ヒットを、放ち、「メンフィス・ソウルの女王」として、スタックスの、看板スターの、一人となります。
まさに、シンデレラ・ストーリーですね。
さて、スタックスには、続々と、黒人の、才能が、集まり始めます。
しかし、彼らの、サウンドを、支えたのは、意外な、人たちでした。
次回、「人種混成のハウスバンド」。
スタックス・サウンドの、心臓部となる、奇跡の、バンドが、誕生します。
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