ロカビリーとサン・レコード 第7話:盗まれた音楽?
作者のかつをです。
第7話をお届けします。
今回は、エルヴィスと、ロックンロールを巡る、非常に、デリケートで、しかし、重要な、テーマに、踏み込んでみました。
「文化の盗用」という、現代にも、通じる、この、難しい問題を、皆さんは、どう、考えますか?
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
エルヴィス・プレスリーが、王座に、君臨する一方で。
その、栄光の、影では、一つの、根深い、批判が、囁かれ続けていた。
「ロックンロールは、黒人から、盗まれた、音楽だ」と。
エルヴィスが、歌った、ヒット曲の、多く。
それは、元々、黒人の、ブルースや、R&Bの、アーティストたちが、先に、レコーディングしていたものだった。
「That's All Right, Mama」は、アーサー・クルーダップ。
「Hound Dog」は、ビッグ・ママ・ソーントン。
しかし、彼ら、オリジナルの、黒人アーティストたちが、正当な、名声や、報酬を、手にすることは、ほとんど、なかった。
同じ曲を、白人の、エルヴィスが、歌った途端、その曲は、何百万枚も、売れる、大ヒットとなる。
この、あまりにも、不公平な、現実。
多くの人々は、エルヴィスを、「文化の盗人」だと、非難した。
彼は、黒人音楽の、美味しいところだけを、盗み、それを、白人の、若者向けに、薄めて、売りさばいた、搾取者なのだ、と。
その、批判は、半分は、正しく、そして、半分は、間違っていた。
確かに、当時の、音楽産業には、構造的な、人種差別が、深く、根付いていた。
黒人アーティストが、正当な、対価を、得られなかったのは、紛れもない、事実だ。
しかし、エルヴィス自身は、黒人音楽への、深い、愛情と、敬意を、抱いていた。
彼は、子供の頃から、貧しい、黒人居住区の、すぐ隣で、育った。
教会の、ゴスペルを、聴き、ビール・ストリートの、ブルースに、心を、震わせた。
彼にとって、黒人音楽は、決して、盗むべき、対象ではなかった。
それは、彼自身の、血となり、肉となった、魂の、一部だったのだ。
彼は、テレビ番組で、こう、語っている。
「ロックンロールは、昔から、あったんだ。それは、基本的に、ゴスペルや、リズム&ブルースだ。黒人の、人々が、何年も、前から、歌っていたものなんだ」
彼は、自らの、ルーツを、隠そうとは、しなかった。
彼が、本当に、成し遂げたこと。
それは、「盗作」ではなかった。
それは、異文化の、偉大な「融合」だった。
黒人の、持つ、情熱的な、リズム。
白人の、持つ、感傷的な、メロディ。
その、二つの、偉大な、川の流れを、彼は、自らの、肉体という、器の中で、一つに、まとめ上げた。
そして、その、新しい、音楽の、奔流は、もはや、誰にも、止められない、巨大な、力となって、アメリカ社会を、分断していた、人種の壁を、なぎ倒していった。
エルヴィス・プレスリーは、聖人ではなかった。
しかし、彼は、ただの、盗人でもなかった。
彼は、時代の、矛盾を、その、一身に、背負った、偉大な、触媒だったのだ。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
この、論争は、今なお、続いています。
しかし、多くの、黒人アーティストたちが、エルヴィスの、功績を、認めているのも、事実です。
B.B.キングは、「エルヴィスが、いなければ、我々の音楽が、あれほど、広く、聴かれることは、なかっただろう」と、語っています。
さて、サム・フィリップスの、夢の、物語。
いよいよ、最終章です。
次回、「ビール・ストリートの夢の跡(終)」。
第八章、感動の、最終話です。
ぜひ最後までお付き合いください。
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