エレクトリック・ギター革命前夜 第3話:ジャズの王様のオーディション
作者のかつをです。
第3話、お楽しみいただけましたでしょうか。
今回は、チャーリー・クリスチャンが、ジャズの王様、ベニー・グッドマンから受けた、屈辱的な仕打ちを描きました。
新しい才能は、常に、古い権威からの、嫉妬と、無理解に、直面する運命なのかもしれません。
※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。
その、運命の電話は、突然、かかってきた。
電話の主は、ジョン・ハモンド。
彼は、レコード・プロデューサーであり、20世紀のポピュラー音楽における、最も重要な、才能発掘人だった。
ブルースの伝説、ロバート・ジョンソンのレコードを、世に送り出したのも、彼だ。
彼は、オクラホマの片田舎で、とんでもない才能が、燻っているという噂を、聞きつけていた。
そして、その才能を、彼がプロデュースする、当代きってのスターに、紹介しようと考えたのだ。
そのスターこそ、「キング・オブ・スウィング」と、呼ばれた男、ベニー・グッドマンだった。
グッドマンは、当時、アメリカで、最も人気のある、バンドリーダーだった。
彼のオーケストラは、常に、最高のプレイヤーたちで、固められていた。
彼のバンドに入ることは、すべてのジャズ・ミュージシャンにとって、最高の栄誉だった。
ハモンドの推薦を受け、チャーリー・クリスチャンは、大きな夢を抱いて、ロサンゼルスへと、向かった。
憧れの、ベニー・グッドマンのバンドで、演奏できるかもしれない。
しかし、オーディションの場で、彼を待っていたのは、冷たい、屈辱だった。
グッドマンは、最初から、チャーリーを、試す気など、なかった。
まず、彼の、田舎者まるだしの、派手な色のスーツと、先の尖った靴が、気に食わなかった。
そして、何よりも、彼が抱えてきた、奇妙な楽器。
アンプに繋がれた、エレクトリック・ギター。
グッドマンにとって、それは、音楽を奏でる、まともな楽器ではなかった。
ただの、下品な、雑音を出す、ガラクタにしか、見えなかったのだ。
「君か、ハモンドが言っていた、オクラホマの天才とやらは」
グッドマンは、冷ややかに、言った。
「まあ、いいだろう。一曲だけ、弾いてみろ」
そして、彼が、意地悪く、指定した曲。
それは、チャーリーが、一度も、聴いたことがない、複雑な曲だった。
チャーリーは、何も、弾けなかった。
彼は、ただ、呆然と、ステージの上に、立ち尽くすしかなかった。
オーディションは、わずか数分で、終わった。
チャーリーは、グッドマンから、一言も、言葉をかけられることなく、ステージから、降ろされた。
夢は、打ち砕かれた。
彼は、このまま、誰にも、その才能を、認められることなく、故郷のオクラホマに、帰るしかないのか。
しかし、ジョン・ハモンドは、諦めていなかった。
彼は、こんな形で、自分が信じた才能が、葬り去られるのを、黙って見ているような、男ではなかった。
彼は、グッドマンに対する、ささやかな、しかし、大胆な「復讐」を、計画していた。
最後までお読みいただき、ありがとうございます!
ベニー・グッドマンは、完璧主義者として知られ、自分のバンドのメンバーには、非常に厳しい要求をすることで、有名でした。
その厳しさが、彼のバンドを、最高水準に保っていたのですが、時には、新しい才能の芽を、摘んでしまうこともあったのです。
さて、このままでは終われない、プロデューサーのジョン・ハモンド。
彼は、常識破りの、ある奇策を、思いつきます。
次回、「ステージへの乱入者」。
歴史を動かす、伝説のジャム・セッションが、始まります。
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