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音楽創世記~音の開拓者たち~  作者: かつを
第1部:魂の源流編 ~ブルース、カントリー、そしてゴスペル~
35/73

ブルースの故郷への帰還 第7話:ミシシッピと、サハラの邂逅

作者のかつをです。

第7話をお届けします。

 

今回はブルースの歴史における最も感動的な邂逅の一つ、アリ・ファルカ・トゥーレとライ・クーダーの共演を描きました。

音楽がいかにして歴史の傷を癒し、文化の橋渡しをすることができるか。

その壮大な力を、感じていただければ幸いです。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

アリ・ファルカ・トゥーレの音楽は、多くの西洋のミュージシャンに衝撃を与えた。

しかしその中でも特別に、深いレベルで彼の音楽を理解した男がいた。

 

アメリカのブルース・ギタリスト、ライ・クーダーだ。

 

彼はブルースだけでなく、ハワイアン、テックス・メックス、沖縄民謡まで、世界中のルーツ・ミュージックを探求し続ける音楽の求道者だった。

 

彼が初めてアリのギターを聴いた時、彼はすぐにその音の奥にある真実を見抜いた。

 

「これはブルースの、源流だ」

 

彼は居ても立ってもいられなくなり、自らアリに手紙を書いた。

「あなたの音楽に深く感銘を受けた。ぜひ一緒に音楽を創りたい」と。

 

アリは最初、その申し出に戸惑った。

彼は西洋のスターと共演することに、ほとんど興味がなかった。

 

しかしライ・クーダーの音楽に対する誠実な探求心は、頑固なアリの心を少しずつ開いていった。

 

そして、1992年。

ついに歴史的なセッションが、実現する。

 

ミシシッピ・ブルースの正統な継承者である、ライ・クーダー。

そしてその遥かなる故郷、マリの伝統音楽の化身である、アリ・ファルカ・トゥーレ。

 

二人のギタリストがスタジオで、初めて音を合わせた。

 

言葉は通じない。

事前に打ち合わせもない。

 

ただ互いのギターの音だけを、頼りにセッションは始まった。

 

ライ・クーダーがボトルネック奏法で物悲しい、ミシシッピ・デルタのブルースを奏でる。

するとアリがその旋律に寄り添うように、ニジェール川のゆったりとしたグルーヴを重ねていく。

 

それはまるで、何百年もの間引き裂かれていた兄弟が再会を果たしたかのような、感動的な瞬間だった。

 

ミシシッピ川と、ニジェール川。

二つの偉大な川の流れが、一つの大きな音楽の海へと溶け合っていく。

 

ブルースはもはや、アメリカだけのものではない。

アフリカだけのものでもない。

それは大西洋を挟んだ二つの大陸の、共通の魂の言語なのだ。

 

このセッションから生まれたアルバム、「トーキング・ティンブクトゥ」はグラミー賞を受賞し、世界中で絶賛された。

 

それは音楽的な成功だけを、意味するものではなかった。

 

奴隷貿易という悲しい歴史によって引き裂かれた二つの文化が、音楽を通じて再び尊厳ある形で結びつくことができる。

その美しく力強い、証明だった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

このアルバム「トーキング・ティンブクトゥ」はワールドミュージックの金字塔として、今なお多くの人々に聴き継がれています。

まさに一生に一度の、奇跡のセッションでした。

 

さて、アリ・ファルカ・トゥーレの旅は現代の私たちとどう繋がっているのでしょうか。

 

次回、「あなたのDNAに眠るリズム(終)」。

第五章、感動の最終話です。

 

ぜひ最後までお付き合いください。

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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