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音楽創世記~音の開拓者たち~  作者: かつを
第1部:魂の源流編 ~ブルース、カントリー、そしてゴスペル~
31/60

ブルースの故郷への帰還 第3話:パリのスタジオ、魂の録音

作者のかつをです。

第3話、お楽しみいただけましたでしょうか。

 

マリの小さな村で、独自の音楽を追求していたアリが、いかにして、世界の舞台へと、その第一歩を踏み出したか。

その、運命的なレコーディングの瞬間を描きました。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

アリ・ファルカ・トゥーレは、マリ国内で、少しずつ、その名を知られるようになっていった。

国営ラジオ局での仕事の傍ら、彼は、様々なバンドで演奏し、その、唯一無二のギタースタイルで、人々を魅了していた。

 

彼のギターは、まるで、ニジェール川の流れそのもののようだった。

ゆったりと、雄大に、しかし、その奥底には、力強い、抗いがたいグルーヴが、渦巻いている。

時に、それは、乾いた砂漠の風のように、物悲しく響き、またある時は、祝祭の太鼓のように、生命力に満ちあふれていた。

 

しかし、彼の音楽は、まだ、マリという国の、国境を越えることはなかった。

当時の欧米の音楽業界にとって、アフリカの音楽とは、いまだに、「未開の地の、エキゾチックな響き」という、ステレオタイプなイメージでしか、捉えられていなかったのだ。

 

そんな中、彼の運命を、大きく変える、一つの転機が訪れる。

1980年代半ば、フランスの、小さなレコードレーベルのプロデューサーが、彼の噂を聞きつけ、マリまで、やってきたのだ。

 

そのプロデューサーは、アリの生演奏を聴き、その場で、衝撃を受けた。

これは、本物だ。

これは、世界が、まだ知らない、新しいブルースだ、と。

 

彼は、アリを説得し、フランスのパリで、アルバムを録音する、という、壮大な計画を持ちかけた。

 

アリは、迷った。

彼は、故郷のニアフンケ村を、深く愛していた。

農夫として、土に生きることにも、大きな誇りを持っていた。

音楽は、金儲けの道具ではない、という思いも、強かった。

 

しかし、自分の音楽を、世界に問う、またとない機会。

そして、ブルースの魂が、アフリカにあるということを、証明するための、絶好のチャンスだった。

 

彼は、生まれて初めて、飛行機に乗り、パリへと飛んだ。

 

近代的な、設備の整ったレコーディング・スタジオ。

それは、彼が、マリのラジオ局で使っていた、古びた機材とは、別次元の世界だった。

 

しかし、彼は、少しも、臆することはなかった。

 

彼は、ただ、目を閉じ、故郷のニジェール川の風景を、心に思い浮かべた。

そして、ギターを弾き、歌い始めた。

 

スタジオには、マリの、乾いた大地の匂いが、満ちていくようだった。

エンジニアも、プロデューサーも、言葉を失って、その音に、聴き入っていた。

 

それは、テクニックや、理論では、到底、説明できない、魂の音楽だった。

何千年という、アフリカの歴史の重みが、その一音、一音に、宿っていた。

 

数日間にわたるセッションの末、一枚の、歴史的なアルバムが、完成した。

その、シンプルなタイトルは、「アリ・ファルカ・トゥーレ」。

 

この一枚のレコードが、やがて、ヨーロッパの批評家たちの間で、静かな、しかし、熱狂的な話題を呼ぶことになる。

そして、彼の名を、ワールドミュージックという、新しい地図の上に、深く、刻み込むことになるのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

この時、パリで録音されたアルバムは、1988年に、イギリスのワールドミュージック専門レーベル「ワールド・サーキット」からリリースされ、欧米で、非常に高い評価を受けました。

まさに、彼のキャリアの、ブレークスルーとなった一枚です。

 

さて、ついに、世界に発見されたアリの音楽。

しかし、彼は、決して、スターになることを、望んではいませんでした。

 

次回、「グラミー賞と、故郷の土」。

世界の賞賛と、故郷での生活との間で、彼の心は、揺れ動きます。

 

よろしければ、応援の評価をお願いいたします!

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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