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音楽創世記~音の開拓者たち~  作者: かつを
第1部:魂の源流編 ~ブルース、カントリー、そしてゴスペル~
3/9

フィールド・レコーディング創世記 第3話:刑務所の歌声

作者のかつをです。

第3話、お楽しみいただけましたでしょうか。

 

今回は、ローマックスの旅における、最も劇的なエピソードの一つ、伝説のブルースマン「レッドベリー」との出会いを描きました。

音楽が、時に人の運命さえも変えてしまう力を持つことを、感じていただければ幸いです。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

アラン・ローマックスが、最も豊かで純粋な音楽の鉱脈を見出した場所。

それは、皮肉にも、アメリカで最も不自由な場所だった。

 

ルイジアナ州立アンゴラ刑務所。

ミシシッピ川の湾曲部に位置するその広大な土地は、「南部のアルカトラズ」と恐れられた、アメリカ最大級のプランテーション刑務所だ。

 

灼熱の太陽が容赦なく照りつける中、縞模様の囚人服を着た男たちが、どこまでも続く綿花畑で、強制労働に就かされている。

彼らのほとんどが、些細な罪や、時には無実の罪で投獄された黒人だった。

 

その、地獄のような過酷な労働の中で、彼らは歌を歌っていた。

リーダー役の男が一声、即興の歌詞を張り上げると、全員が力強いコーラスでそれに続く。

斧を振り下ろすタイミング、土に鍬を打ち込むタイミング。

そのすべてが、歌の重いリズムと、完全に一体化していた。

 

それは、娯楽のための歌ではなかった。

生きるための、そして正気を保つための、必死の叫びだった。

アフリカの労働歌の記憶が、世代を超えて色濃く残る、生きた音楽の化石が、そこにはあった。

 

ローマックスは、看守にいくばくかの金を渡し、この「ワークソング」を記録する許可を得た。

機械から、自分たちの荒々しい歌声が再生されるのを聴いた囚人たちの顔には、驚きと、束の間の喜びが浮かんだ。

 

そんな彼らの中から、一人の囚人が、ゆっくりとローマックスの前に進み出た。

 

「旦那、俺の歌も、録ってくれんか」

 

男は、ハディ・レッドベターと名乗った。

しかし、誰もが彼を、こう呼んでいた。

“レッドベリー(鉛の腹)”と。

その名の通り、腹には、かつて酒場の乱闘で撃ち込まれた散弾の鉛が、何発も残っているという。

 

殺人罪で、終身刑。

その鍛え上げられた巨体と、すべてを見透かすような鋭い眼光は、他の囚人たちからも恐れられていた。

 

しかし、彼が、古びて傷だらけの12弦ギターを手にし、最初のコードを弾き、そして歌い始めた瞬間。

刑務所の重苦しい空気は、一変した。

 

その声は、雷鳴のように力強く、井戸の底のように深く、そして、どこまでも物悲しかった。

南部の泥と、汗と、そして血の匂いがする、本物のブルース。

彼の歌には、一人の男の波乱に満ちた人生だけでなく、一つの民族が歩んできた苦難の歴史そのものが、生々しく刻み込まれているようだった。

 

ローマックスは、ヘッドフォンを握りしめ、電流に打たれたような衝撃を受けていた。

これは、ただの歌じゃない。

これは、アメリカという国の、隠された魂の記録だ。

 

彼は、確信した。

この声を、この場所に、閉じ込めておいてはならない、と。

 

録音を終えた後、彼は、この囚人の歌声がいかに文化的価値のあるものであるかを、ルイジアナ州知事に宛てて、熱烈な手紙を書き送った。

この一本のレコードが、やがて、囚人レッドベリーの運命を、そしてアメリカの音楽史を、大きく変えることになるなど、まだ誰も知る由はなかった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

ローマックスが録音したレッドベリーの歌は、実際に州知事の耳に入り、それがきっかけで彼は恩赦を受け、釈放されました。

まさに、歌が鉄格子を溶かした瞬間ですね。

 

さて、歴史的な才能を発掘したローマックス。

しかし、彼が探し求めていた、もう一人の伝説の男は、すでにもう、この世にはいませんでした。

 

次回、「悪魔との取引」。

ブルースにまつわる、最も有名な伝説と、ローマックスの探求が交差します。

 

よろしければ、応援の評価をお願いいたします!

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この物語の公式サイトを立ち上げました。


公式サイトでは、各話の更新と同時に、少しだけ大きな文字サイズで物語を掲載しています。

「なろうの文字は少し小さいな」と感じる方は、こちらが読みやすいかもしれません。


▼公式サイトはこちら

https://www.yasashiisekai.net/

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