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音楽創世記~音の開拓者たち~  作者: かつを
第1部:魂の源流編 ~ブルース、カントリー、そしてゴスペル~
27/60

カントリーミュージック発見の日 第6話:ビッグバン・セッション

作者のかつをです。

第6話をお届けします。

 

カントリーミュージックというジャンルを定義づけた、二つの大きな才能。

その対比と、その二つが同じ場所で記録されたことの奇跡。

今回は、ブリストル・セッションの、歴史的な意義に迫りました。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

ラルフ・ピアは、ジミー・ロジャースという、予測不能な才能を前に、興奮を隠せなかった。

彼は、当初の予定を変更し、ロジャースと、2曲を録音することを、即決した。

 

そのうちの一曲が、兵士の悲恋を歌った、センチメンタルなバラッド「The Soldier's Sweetheart」。

そして、もう一曲が、ロジャース自身の、鉄道員時代のブルースを元にした、「Sleep, Baby, Sleep」だった。

 

マイクの前に立った、ロジャース。

その痩せた身体から、信じられないほど、豊かで、表現力に満ちた歌声が、放たれる。

 

そして、曲の合間に、あの、奇妙なヨーデルが、挿入された。

「ヨロレイヒー!」

 

それは、アルプスの陽気な響きとは、全く違う。

まるで、孤独な狼の遠吠えのように、物悲しく、しかし、どこか突き抜けたような、不思議な響きを持っていた。

ピアは、これを「ブルー・ヨーデル」と名付けた。

 

ブルースの「ブルー」と、ヨーデルの融合。

まさに、新しい音楽ジャンルが、産声を上げた瞬間だった。

 

わずか12日間の、ブリストルでの録音セッション。

 

ピアは、この短期間に、合計19組のアーティスト、76曲もの録音を、成し遂げた。

 

そして、その中には、全く対照的でありながら、どちらもが、後のアメリカ音楽の巨大な柱となる、二つの才能が、含まれていた。

 

一つは、カーター・ファミリー。

彼らは、アメリカという国の、失われた「過去」の記憶を、歌い継ぐ、伝統の守護者だった。

彼らの音楽は、家族、信仰、そして故郷への愛といった、保守的な価値観の、象徴となった。

 

そして、もう一つが、ジミー・ロジャース。

彼は、鉄道によって結ばれ、変化し続ける、アメリカの「現在」を、歌う、革新者だった。

彼の音楽は、放浪、孤独、そして自由への渇望といった、近代的な個人の、魂の叫びだった。

 

伝統と、革新。

過去と、現在。

家族と、個人。

 

この、二つの全く異なるベクトルが、1927年の夏、ブリストルという、一つの小さな町で、奇跡的に、交差した。

 

その交差点から、カントリーミュージックという、豊かで、多様な、新しい宇宙が、爆発的に、広がっていくことになる。

 

後に、多くの音楽史家が、このブリストル・セッションを、こう呼ぶようになった。

「カントリーミュージックのビッグバン」と。

 

ラルフ・ピアは、ワックス盤に刻まれた、まだ温かい溝を、満足げに眺めていた。

彼は、自分が、今、歴史の、最も重要な瞬間に、立ち会っていることを、はっきりと、自覚していた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

このセッションは、まさに、アメリカ音楽の縮図のようですね。

ヨーロッパからの移民が伝えた古いカーター・ファミリーと、アフリカ系アメリカ人から生まれたブルース(ジミー・ロジャース)。

その二つが融合して、カントリーという、全く新しいアメリカの音楽が生まれたのです。

 

さて、奇跡のセッションは、終わった。

この後、彼らのレコードは、どうなったのでしょうか。

 

次回、「ナッシュビルへと続く道(終)」。

第四章、感動の最終話です。

 

ぜひ最後までお付き合いください。

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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