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音楽創世記~音の開拓者たち~  作者: かつを
第1部:魂の源流編 ~ブルース、カントリー、そしてゴスペル~
17/60

教会にブルースを持ち込んだ男 第4話:教会からの追放

作者のかつをです。

第4話をお届けします。

 

新しいものが生まれる時、そこには、必ず、古い権威からの抵抗があります。

今回は、ドーシーが直面した、教会という、巨大な伝統との戦いを描きました。

彼の孤独と、それでも屈しない意志の強さを、感じていただければ幸いです。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

トーマス・ドーシーは、新たな使命感に燃えていた。

 

自分が書いた、新しいスタイルの賛美歌――ゴスペル・ソングを、シカゴ中の教会に、広めようとしたのだ。

彼は、自ら楽譜を印刷し、一軒、また一軒と、教会の扉を叩いて回った。

 

しかし、彼を待っていたのは、賞賛ではなく、冷たい拒絶だった。

 

「ドーシーさん、これは、何ですかな?」

 

教会の牧師や、聖歌隊の指揮者たちは、楽譜を一瞥するなり、眉をひそめた。

 

「こんな、ブルースのような、安っぽいリズム。神聖な礼拝で、歌えるわけがないでしょう」

 

彼らにとって、ドーシーの音楽は、神への冒涜、そのものだった。

伝統的な賛美歌の、厳かで、抑制されたハーモニーとは、あまりにもかけ離れていた。

ドーシーの曲には、ブルース特有の、シンコペーション(リズムをずらすこと)や、ブルーノート(微妙に音程を下げた音)が、ふんだんに使われていた。

 

それは、体を揺らし、手拍子を打ちたくなるような、躍動するリズム。

教会音楽が、最も嫌う、世俗的な「肉体のリズム」だったのだ。

 

さらに、彼らにとって、ドーシー自身が、問題だった。

 

「あなたは、あの“ジョージア・トム”でしょう?」

「あなたの書いた、あの下品なブルースを、私たちは知っていますよ」

「悪魔に魂を売った男が書いた賛美歌など、信用できるものか」

 

彼の過去が、彼の新しい音楽の前に、大きな壁となって、立ちはだかった。

多くの教会が、彼の楽譜を受け取ることすら、拒んだ。

ある教会では、彼は、文字通り、玄関から追い出された。

 

「教会からの追放」

 

それは、牧師の息子として育った彼にとって、何よりも辛い仕打ちだった。

 

彼は、孤独だった。

ブルースの世界からは、足を洗った。

そして、神の世界からは、異端者として、追放されようとしている。

 

彼の音楽は、どこにも、居場所がなかった。

 

心が、折れそうになる。

自分は、間違っているのだろうか。

この音楽は、やはり、神に受け入れられない、罪深いものなのだろうか。

 

しかし、彼は、諦めなかった。

絶望の淵で、この音楽に救われたのは、他の誰でもない、自分自身なのだから。

 

もし、教会が、この歌を歌ってくれないのなら。

 

「自分で、歌う場所を作るまでだ」

 

彼の、反逆が始まろうとしていた。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

当時の黒人教会は、地位や教養を重んじる中産階級の社交場という側面もありました。そのため、南部の労働者階級の音楽であるブルースを、野蛮なものとして、ことさらに軽蔑する風潮があったのです。

 

さて、教会から締め出されたドーシー。

彼は、いかにして、自らの音楽を、民衆の元へと届けていったのか。

 

次回、「聖なるリフレイン」。

ゴスペルという音楽を、世に広めるための、画期的なアイデアが生まれます。

 

物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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