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音楽創世記~音の開拓者たち~  作者: かつを
第1部:魂の源流編 ~ブルース、カントリー、そしてゴスペル~
15/60

教会にブルースを持ち込んだ男 第2話:妻子の死

作者のかつをです。

第2話をお届けします。

 

今回は、ドーシーの人生における、最も暗く、そして最も重要な転換点となった悲劇を描きました。

人間の創造性は、時に、こうした耐え難いほどの絶望の中から生まれることがあります。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

シカゴの音楽シーンで、“ジョージア・トム”ことトーマス・ドーシーの名声は、頂点に達していた。

彼が書くブルースは、次々とヒットし、彼は富と名声を手に入れた。

 

彼は、愛する女性ネティと結婚し、家庭を築いた。

牧師である父親が嘆いた「悪魔の音楽」は、彼に、世俗的な幸福のすべてを与えてくれたかのように見えた。

 

しかし、彼の心の中の罪悪感が、完全に消えることはなかった。

時折、彼は神経衰弱に陥り、音楽活動を休止することもあった。

聖と俗の間で揺れ動く魂は、彼を蝕み続けていた。

 

1932年8月。

ネティは、臨月を迎えていた。

ドーシーは、セントルイスでの大きなギグ(演奏の仕事)に出かけていた。

ブルース・スターとして、最高のパフォーマンスを披露し、喝采を浴びていた、その夜。

 

シカゴの自宅から、一本の電報が届いた。

「スグカエレ」

 

胸騒ぎを覚えながら、彼は夜行列車に飛び乗った。

翌朝、シカゴの我が家のアパートにたどり着いた彼を待っていたのは、あまりにも残酷な現実だった。

 

妻のネティが、出産中に、亡くなったのだ。

 

彼は、その場に崩れ落ちた。

神は、いないのか。

なぜ、こんな仕打ちを。

 

親族が、彼を慰めようと、生まれたばかりの息子の赤ちゃんを、彼の腕に抱かせた。

それは、ネティが遺してくれた、唯一の希望の光だった。

 

しかし、その光さえも、神は、無慈悲に奪い去っていく。

その日の夜、生まれたばかりの息子もまた、静かに息を引き取った。

 

絶望。

完全な、暗闇だった。

ドーシーは、たった一日で、愛する世界のすべてを失った。

 

彼は、ピアノの前に座り、鍵盤を憎しみを込めて叩きつけた。

自分に富と名声をもたらした、このブルースが、憎かった。

この「悪魔の音楽」に現を抜かしていたから、神は罰を下したのだ。

 

彼は、神を呪った。

そして、自分自身を、呪った。

 

数日間、彼は、誰とも口を利かず、部屋に閉じこもった。

葬儀の日、彼は、まるで抜け殻のようだった。

友人たちは、彼が、もう二度と、音楽の世界に戻ってくることはないだろう、と思った。

 

ブルース・ピアニスト、“ジョージア・トム”は、妻子の亡骸と共に、完全に死んだのだ。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

この悲劇は、ドーシーの人生にとって、まさに十字架となりました。

しかし、キリスト教の世界では、十字架は、死であると同時に、再生の象徴でもあります。

 

さて、すべてを失ったドーシー。

暗闇の底で、彼は、一つのメロディと出会います。

 

次回、「神への祈り、ブルースの響き」。

ゴスペルという、新しい音楽が、産声を上げる瞬間です。

 

ブックマークや評価、お待ちしております!

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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