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音楽創世記~音の開拓者たち~  作者: かつを
第1部:魂の源流編 ~ブルース、カントリー、そしてゴスペル~
11/60

ブラックミュージック は“ビジネス”になるか? 第4話:魂の値段

作者のかつをです。

第4話、歴史が動く瞬間です。

 

人種的な偏見が渦巻くスタジオで、マミー・スミスが、いかにしてそのプレッシャーを跳ねのけ、歴史的な歌声を残したか。

そのクライマックスを描きました。

 

※この物語は史実を基にしたフィクションです。登場する人物、団体、事件などの描写は、物語を構成するための創作であり、事実と異なる場合があります。

1920年8月10日。

ニューヨークのオーケー・レコードのスタジオは、異様な緊張感に包まれていた。

 

スタジオに入ってきたのは、華やかなドレスに身を包んだマミー・スミスと、ペリー・ブラッドフォードが率いる黒人ミュージシャンたちの一団「ジャズ・ハウンズ」。

 

彼らを迎えたのは、白人のスタジオ・エンジニアたちの、冷たく、好奇の目に満ちた視線だった。

まるで、実験用の動物でも観察するかのように。

 

誰もが、この試みは失敗する、と信じていた。

黒人に、レコード録音という精密な作業ができるはずがない、と。

 

巨大なラッパのような集音マイクの前に、マミー・スミスが立つ。

彼女もまた、極度の緊張で、喉がカラカラに乾いていた。

 

ブラッドフォードが、彼女の肩を、力強く叩いた。

「マミー、ハーレムの、俺たちの誇りのために、歌うんだ」

 

録音技師が、合図を送る。

ブラッドフォードのピアノが、イントロを奏で始めた。

 

曲は、「クレイジー・ブルース」。

ハガーとの約束を破り、ブラッドフォードが、土壇場でねじ込んだ、本物のブルースだった。

 

マミーは、一度、深く息を吸い込んだ。

そして、その口から放たれた第一声は、スタジオの空気を、一瞬で震わせた。

 

それは、もはや、キャバレーの女王の声ではなかった。

絶望と、怒りと、そして、決して失われることのない人間の尊厳を込めた、魂の叫びだった。

 

彼女の歌声は、集音マイクを通り、隣の部屋で回転するワックスの原盤に、その溝を刻み込んでいく。

 

演奏が終わった瞬間、スタジオは、一瞬、静寂に包まれた。

冷ややかに見ていた白人のエンジニアたちも、言葉を失って、立ち尽くしている。

 

彼らは、ただの音楽を聴いたのではなかった。

彼らは、生まれて初めて、別の人種の、魂の形に、触れたのだ。

 

ペリー・ブラッドフォードは、静かに、拳を握りしめていた。

 

勝った。

 

この声は、歴史を変える。

彼には、その確信があった。

最後までお読みいただき、ありがとうございます!

 

この録音は、当時としては画期的に、バックバンドもすべて黒人ミュージシャンで固められました。

これも、ブラッドフォードの強いこだわりの結果でした。

まさに、本物のサウンドを目指したのです。

 

さて、歴史的な録音は、無事に終わった。

しかし、本当の戦いは、このレコードが、市場に受け入れられるかどうかでした。

 

次回、「搾取か、機会か」。

驚異的な大ヒットが、新たな光と、そして影を生み出します。

 

物語の続きが気になったら、ぜひブックマークをお願いします!

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もし、この物語の「もっと深い話」に興味が湧いたら、ぜひnoteに遊びに来てください。IT、音楽、漫画、アニメ…全シリーズの創作秘話や、開発中の歴史散策アプリの話などを綴っています。


▼作者「かつを」の創作の舞台裏

https://note.com/katsuo_story

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