DAY 8 メッセージが来たら十秒以内に顔文字で返信し続けた日
「じゃあ一回帰るけど、絶対に肉を焼いて食うなよ、いいな」
「大丈夫だってクロワー、ミャーマだって子供じゃないんだしー」
「急にダイエットを始めたから、身体を保つためのお肉の補給は大事だけど、少量にしようね」
マラソンと野菜サンドイッチ朝食を終えたら、女性三人が一回自宅に帰るとのこと。
なんだか見張りがいなくなった途端に俺が肉を食う前提だが、大丈夫ですって。
だって夕食には、西崎さんのお店での中華フルメニューが待っているんだぞ。
満足度が高いのは、絶対にそっち。
家で雑に肉を焼いて食うとか、むしろ損な選択肢。
俺の輝くマシュマロボディは、至高の肉と油を求めているんですよ。
「大丈夫ですよ。だって俺たちはダイエットで繋がった仲間なんですよ。俺が苦楽を共にする仲間を裏切るとか、絶対に無いです」
「……まぁいい。定期的に確認のメッセージ送るけど、絶対に即返信だからな。十秒遅れるごとに夕食のメニュー数、一個ずつ減らす」
俺が良い笑顔で決めるが、金髪ヤンキー女子、伊江里さんがとんでもなく残酷な宣告をしてくる。
え、ちょ……十秒ごとって……。
「あ、それ面白ーい! 即返信ゲーム私も参加するー! よーし、楽しみにしているミャーマの夕食のメニューを減らしちゃうぞー!」
ポニーテールがとても似合うスポーツ女子、藤浪さんの目がバチーンと開き、携帯端末を握り鼻息が荒くなる。
「え、いや、その藤浪さん、これって俺のメニュー数を減らすゲームじゃなくて、俺が肉をこっそり食っていないかを確認する定期連絡……」
「ふふ、美山君がいると、みんな楽しそう。せっかくだから私も参加しちゃおうかな」
和風美人の西崎さんも楽しそうに参加宣言をしてきたが、さすがに3対1では俺が不利すぎるのでは。
「…………お帰りになられたか……」
女性三人をマンションの玄関まで見送り、俺は一人、自宅へ帰る。
豪華肉祭りは今夜十六時、マラソンをしている公園に集合。
現在午前十時、さて、それまでの自由時間、今俺がすべき最優先事項は……
ブルルル──
「うわっ……! 『肉食うな』……って伊江里さんか……つか連絡早すぎだろ」
今のは俺のマシュマロボディセンサーが震えたのではなく、携帯端末の通知お知らせ。
「ったく、どんだけ信用が無いんだ、俺は。というか、女性への返信なんて初めてじゃないか? ええと、人生初の女性へのメッセージは……言葉は緊張するし、ニッコリ顔文字で返信っと」
ブルルル──
「うわっと、今度は藤浪さんに西崎さんか……。『ももよーん参上!』え? 意味わからん。『西崎です、嫌いな物はある?』あ、俺の胃は何でも吸い込みます。というか、同時はよしてくれ、十秒ルールが重くのしかかるっての。こっちも顔文字返信っと」
ふぅ、これでノルマ達成。
俺の夕飯のメニュー数、維持完了だぜ。
「あれ、また伊江里さん……『てめぇの顔を送るな』って……いや、普通のニッコリ笑顔の顔文字ですって! 俺の顔ってどんだけ単純なんだよ……」
ったく……人の顔を何だと思っているんだ。
……そういえば、この携帯端末に女性の連絡先が入るのなんて初めてだな。
この俺がクラスの三大美女と言われる、伊江里クロワさんに藤浪桃世さん、西崎華さんと繋がっているとか……なんか信じられない。
「これって……俺からメッセージを送ってもいいのかな? いやいや、キモいからやめとけ、それじゃただの勘違い野郎だ。これは俺が肉を食べていないかの、確認システム。向こうから送られてくる連絡に顔文字で返す、それだけだ……」
というか、女性と何を話せばいいのか分からないし。
「ふぁぁ……」
眠い……昨日から食事制限だったり走ったり、今までの人生でやったことのない行動をしているからな……昼ごはんは無くていいから、時間まで寝るか……
十六時集合だから、十五時に起きればいいか。
「寝よ……って何だこの甘い香り……!」
自部屋のベッドで寝ようとしたら、なんか布団がすっごい甘い香りで満ちている。
あ、そうか……そういえば昨日、ここで伊江里さんが寝たんだった。
「…………ダメだ……! 伊江里さんの顔が浮かんで寝れない……」
一昨日まで普通にこのベッドで寝ていたのに、伊江里さんが使うシャンプーの甘い香りが満ちていて興奮して寝れないじゃないか。
「あ、メッセージ。『ももよーんピンチ! カラスの襲撃FIGHT!』……藤浪さんは帰り道、どこで何に遭遇しているんだ……」
顔文字返信っと、って今気付いたが、寝たら十秒返信出来ないじゃないか。
メニュー数維持!
俺は一睡もしないぞ!
「──メッセージに顔文字で返信……メッセージに顔文字で返信……メッセージに顔文字で返信……」
その後、俺は眠いのを我慢し、居間のソファーに鎮座。
携帯端末を握りしめ、夕飯の豪華中華メニュー数維持の為に無心で過ごした──
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影木とふ