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DAY 2 美女が三人家に押し寄せたから肉神様からの卒業日




「服を全部脱げ、美山進太」



 え……? 服……?


 幸せなお弁当タイム(肉)を終え、トイレに行こうとしたら、うちのクラスの三大美女と呼ばれる三人に声をかけられた。


 俺とは違う世界線に生きている彼女たちからアクションを起こされるとか、俺が今まで肉を食べて積んだ徳が効果を発揮し始めたのか、とも思ったが……そうじゃあないな。


 なんでクラスの仲良くしているであろうイケメンたちではなく、体重多めの三軍四軍レベルの俺に白羽の矢が立ったか……それはまぁ、あまりよくはない理由だとは想像出来る。


 例えばカツアゲとか……?


 いやいや、クラスメイトを悪く言い過ぎか。


 つか、伊江里さんがすっげぇ睨んできて怖い。


 俺のマシュマロボディセンサーが危機を察し震え始め、逃げようとするが、金髪ヤンキー女子、伊江里クロワさんに胸ぐらをつかまれ、倉庫みたいな場所に連れ込まれてしまった。


 そして俺の自慢の曲線美ボディをジーっと眺めた伊江里さんが、衝撃の一言を放つ。


 服を脱げ、と──




「服って……ここで? あ、いや、女性の前でそういうのはよくないんじゃ……」


「ゴチャゴチャうるせぇな、上半身だけでいいから脱げって言ってんだよ」


 もしかして裸の写真撮られて脅されるとか……!


 いや、別に俺は今のふくよかな身体になんの不満も無いし、恥ずかしさもない。


 写真を撮られてばら撒かれたところで、肉のメンタルを持つ俺からしたら、ふぅん、程度なのだが。


「いきなりどしたのクロワー。美山っち困ってるよー? つか言いにくいってミヤマって……ああ、ミャーマ、今日からミャーマって呼ぶね!」


「……確かに彼の体形は、ダイエットの効果を見るのには適しているとは思うけど……クロワ、彼と何か接点あったの? このクラスに入ってから、美山君と話しているところを見たことがないけれど……」


 俺の前に仁王立ちしている伊江里さんに、友人である藤浪さんと西崎さんが不思議そうな視線を送る。


 そう、俺と伊江里クロワさんは家が近く、小学校の時までは仲が良かった。


 が、中学に入ってから伊江里さんがヤンキー気質になり、そういう友人に囲まれ始めた。


 なので自然と距離が開き、一言も話すことなく中学を卒業。


 高校で同じクラスになってビックリしたが、伊江里さんは相変わらずヤンキー路線なので、俺は近寄らないでいた。怖いし。


 向こうからも話してこない、というか、細身イケメンたちに囲まれた彼女が、丸めの俺に興味があるわけがないだろう。


 なんでここで、急に俺に接触してきたんだ?


 そういえばダイエットがどうの、と言っていたな。


「どうもこうもねぇ。見ろよこいつの身体。このダイエット方を試すのに最適過ぎだろ」


 伊江里さんが、何かの雑誌と携帯端末の画像を見せてくる。


 ええと……「今からでも間に合う彼のハートを射止めるスリム術! 一か月であなたも王子様がかしずくお姫様に変身!」と書かれた雑誌に、携帯端末には雑誌からQRコードで飛んだ動画サイトが表示されているな。


 チラとそのお姫様への行程を見ると、毎日の食事制限、決められた時間に数キロのマラソン、さらには脂肪を筋肉へと変えるビルドアップ術が書かれている。


 ちょ、おい、これを俺がやるの……?


 待ってくれ、こんなのをやったら、俺の自慢の曲線美が消えてしまうじゃあないか!


 しかも一か月、三十日間毎日食事制限だと……?


 無理だ、肉の神に祝福を受けている俺には出来ない所業だ。


 悪いけど俺、宗教上野菜を食ったら死ぬ体質なんだ。


 ……あーあ、ちょっとだけハーレム展開を期待したけど、現実はそう甘くはないな。


 ただの実験モルモットとか、ご勘弁。


 やはり違う世界を生きている者同士の接触は、話も通じないし、ロクなことにならない。


 俺は引き続き肉神様と添い遂げるから、それじゃあさようなら。





「うっわー、男子の部屋って初めて入ったー! つか私の部屋より綺麗じゃん! ミャーマ掃除好きなのー?」


「……桃世はもうちょっと部屋を綺麗にしたほうがいいわよ。試しで買ったサプリとか化粧品とか、飽きたらちゃんと処分しなさい。うん、美山君はいいわね、合格」


「うーわ、お前の家の冷蔵庫、肉しか入ってねぇ。しかもちゃんと使いやすい大きさに切り分けて冷凍してあるし……肉好きすぎだろ」


 週の最後、金曜日の高校の授業が終わり、帰宅。


 ふぅ、やっと俺の癒しの肉空間に帰ってこれたぜ、と思ったら、なぜかご来訪者が……。


「あ、ちょ、やめて、あちこち触らないで……! 冷凍庫は必要な時以外に開けたら、肉が溶けて鮮度が落ちちゃうから……!」


 俺の家は高校から歩いて五分とかいう、とんでもなく好立地。


 おかげで通学時間を大幅に短縮でき、その浮いた時間を存分に朝の肉の調理に充てられるのだ。


「ミャーマってこんなマンションに一人暮らしとか、どうなってるのー?」


「あ、いや、高校に入るとき東京に引っ越す話があって、俺だけ地元を離れたくなかったから残ったんだ」


 藤浪さんが居間のソファーにドカンと座りくつろぎ、テレビを点ける。


 ちょ、この家に男の友人すら呼んだことないのに、なんで急にクラスの三大美女が俺の家にいるんだよ……。


「……家が全体的に綺麗。すごいわね美山君。一人暮らしで家をしっかり管理しつつ、成績も上位50位以内とか。ちょっと見直しちゃった、というか、私よりすごい」


 和風美人の西崎さんがキッチン、トイレ、お風呂などの水回りを入念にチェックし始める。


 え、なんなの、賃貸の入居前チェックじゃあるまいし。


「え、あ、うん、掃除とかは好きでさ。料理も自由に作れるから、好きな物食べれて一人暮らしに不満は無いかなぁ……」


「ボッス!」


「え、あ! 犬だー! かわいいー!」


「っ! かわいい……!」


 俺の部屋で寝ていた愛犬ボスが騒ぎに気付き、俺の元に走ってくる。


 藤浪さんと西崎さんが笑顔で抱きつこうとするが、愛犬は二人を華麗にかわし、冷蔵庫チェックをしていた金髪ヤンキー女子、伊江里さんにダイビング。


 ちょ、おいこらボス! いきなり女性にダイビングはアカンって!


「うわっ……ってボスか。お前変わらねぇな」


 伊江里さんがボスの奇襲に少し驚くが、慣れた手つきでボスの頭を撫でて落ち着かせる。


 ……ああ、そういえば小学校のとき、ボスは伊江里さんに懐いていたな。


 ボスも伊江里さんを覚えていたのか。


「……知ってるの? その犬」


「あぁ? 知らねぇな。それより美山進太、冷蔵庫に貯め込んだ肉は今日で卒業だからな」


 和風美女、西崎さんが不思議そうな顔で聞くが、伊江里さんはスルー。


 冷蔵庫をドカンと閉め、伊江里さんが俺を睨んでくる。



 肉からの卒業……だと……?


 それは俺の生命が絶たれると同義なのだが……



 というか、なんで俺の家に美女が三人もいるの。



































「俺のワガママボディがクラスの三大美女を溜まり場に引き込んだ件について」


++++++++++++++



【以下定型文】



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         影木とふ






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