DAY 10 料亭西崎で決起集会と二つの約束をした日
「それじゃあ、『一か月のダイエット計画をチームワークで乗り切ろう膳』どうぞ召し上がれ。ふふ」
金曜日の午後から、クラスの三大美女とのダイエット計画が突如発動。
なぜか俺も巻き込まれ、俺の常食である肉がほぼ食えない状態に。
土曜日、朝のマラソンを終えた後、和風美人西崎さんが「今夜はうちのお店で食べましょう」と言い出し、これは街中華だな、そうに違いない! と肉と油を期待したのだが……
「うわぁー! すっごーい、何この色鮮やかなご飯ー! これ何の野菜? 赤とかオレンジとか黄色とかいっぱいだー!」
「……華、ちょっと気合入れ過ぎじゃないか。これ……値段エグイだろ、絶対」
公園集合で西崎さんのお店とやらに来てみたら、タワー型高級ホテルの最上階にあるという、日本料理屋さん。
ちょ、ここ、油がはねても大丈夫なブッカブカの赤ジャージで入っていいお店じゃあないでしょう。
格式のお高そうなお店に入り案内されたのは、豪華な内装の広い個室。
え、いや西崎さん、ここって高校生が入っていいとこじゃないですって。
金髪ヤンキー女子、伊江里クロワさんも言っていたが、目の前に並べられた料理、これは絶対に数千円では食えない系コース確定。
携帯端末でこのお店を調べてみたら、五万円からのおまかせコースが人気、とか書かれていた。
ご……ごま……!
俺が持参した予算って、高校生が街中華を満喫出来るだろう金額、五千円しか持ってきてないんですが。
「大丈夫、これは私からのお礼ですから。まだ始まって二日だけど、なんだかこのメンバー、楽しいの。この四人なら、大変なダイエット計画も達成出来るだろうし、その過程すら良い思い出になりそう。これから一か月、大変だろうけど、最初ぐらいは豪華な物でもいいよね?」
女性三人は着物を着ているのだが、その中でも抜群に似合っている着物美人、西崎さんがニッコリ微笑む。
「ありがとう華ー! 愛してるー! このお魚うまー!」
「悪いな、華。いつか必ず何かの形で返すよ」
「ありがとうございます西崎さん! 俺絶対にダイエットを成功させますから、見ていて下さい! 西崎さんの笑顔に誓います! 俺は絶対に西崎さんの隣にいても恥ずかしくない身体を手に入れてみせますから!」
こんな日本料理のフルコース、滅多にどころか、下手したら一生食えないレベル。
それを奢ってもらえるとか、こんなの絶対にダイエットを成功させるしかない。
というか、西崎さんて笑うとすっごい可愛い。
細身だけど出るとこ出ていてグラマラス、その西崎さんの横に立っていても笑われない身体をこの手に……!
「まぁ、それじゃあ一か月後、二人でどこかに出かけましょうか。ふふ、美山君って面白いから、今から楽しみ」
え、来月二人でお出かけ……?
それってデートってやつっすか! いいんすか、俺、人生初のデートになりますけど、それをお美しい西崎さんに捧げられるとか、夢みたいなんですけど!
「おい華、変なエサでこいつを釣るな。お前も妙に興奮すんな、ただのリップサービスだっての」
それ聞いた伊江里さんが不機嫌な顔になり、俺の脇腹をつかんでくる。
痛……くはない。俺のマシュマロボディの防御力は、最終ダンジョンすら余裕レベルなんで。
「え、本当よ? ダイエットが成功したら、というか、美山君が一か月間のダイエット計画を乗り越えたら、本当にお出かけするよ?」
「あれれ、今まで数々のイケメンの誘いをスルーしてきた華が、逆にデートのお誘いだー! これはダイエット頑張らないとだよミャーマ、あははは!」
「……ちっ……おい華、こいつを甘やかすな」
よく分からんが……とりあえず一か月のダイエット計画を乗り越えたら、和風美人の西崎華さんとデートが出来るのか……!
それは絶対に乗っかるべき!
高級料理といいデートといい、一生に一度レベルのことがまとめてやってきたぞ!
俺、明日交通事故にならないよな?
「ごちそうさまでした、マジで美味かったです西崎さん!」
「ふふ、お肉は入れられなかったけど、美山君が嬉しそうで良かった」
味わうようにゆっくり食べ、デザートまで完食。
西崎さんが言ったように、これもダイエット計画に沿って作ってくれたそうで、しっかりとカロリーなどが計算されたダイエットメニューらしい。
お肉は入っていなかったが、魚介がたくさん使われていて、すんごく美味かったです。
「超うまー! これで明日からの早起きダイエット計画も頑張れるー!」
「美味しかったよ、華。ああ、それと明日の日曜日はお休みだから。ってサボっていいってことじゃなくて、各自動くように。いいな美山進太」
おお、明日の日曜日はダイエットお休みか!
って俺だけ名指し……いやいや、さすがにここまでされてサボらないですよ。
本当かどうか分からないし、例え釣りのエサだとしても、来月には西崎さんとデートだって思えば能動的にダイエット出来そう。
よし、頑張るぞ。
午後十九時、お店の人や西崎さんのご両親にめいっぱい頭を下げお礼を言い、ホテルを出る。
いやぁ、夢のような空間だった。
肉が無くても美味しい料理ってあるんだな。
「じゃあ月曜日に学校でねー! ばいばーい!」
「ふふ、なんかみんなに会えない日曜日が一番寂しい。定期でメッセージは送るけど、美山君も顔文字だけじゃなくて気軽に何かメッセージを送ってね」
ホテル前で挨拶をし、解散。
そういえば、クラスの三大美女とのメッセージグループに俺も入っているんだっけ。
女性にメッセージとか……何を送ればいいのか分からない。
メッセージが来たら顔文字返信、が唯一減点にならない方法だろうしなぁ。
「おっと、公園だ走らなきゃ……って違った。今は家への帰り道だったっけ……」
顔文字以外の返信内容をうんうん唸って考えていたら、ダイエット計画でマラソンをしている公園に到着。
条件反射で走ろうとしたが、たった二日で脳に刷り込まれているのかよ。
「明日も早朝マラソンやるか……」
「……いい心がけだ、美山進太」
こういうのって、一度でも休むと楽な道へ流れそうだし、明日はお休みって言われたけど、一人で走るか、と思い呟いたら、真後ろから女性の声が。
「え、あれ、伊江里さん……」
驚き振り返ると、金髪ヤンキー女子、伊江里クロワさんが俺の後ろを歩いていた。
あ、そういえば伊江里さんの家って、俺のマンションの近くだしな。
ホテルからの帰り道は一緒ってやつか。
「……一個言い忘れてた。いきなりダイエット計画に参加させてしまったからな……ご褒美だ。一か月のダイエット計画を乗り越えられたら、お前の言うことを一個だけ何でも聞いてやる。常識外じゃなければ、マジで何でもするから今から考えとけ、いいな」
伊江里さんが下を向き、ボソボソと小さい声で言う。
え?
何でも……だ、と……!
それってもしかしてエロいことでもいいんすか……ってそんなこと伊江里さんに言ったら殴られるか……。
「二人には言うなよ。これはお前と私だけの約束だ。バラしたら……ブン殴る」
そう言い、伊江里さんが着物の裾を持ち、走っていった。
うっへ、マジで軽いノリでエロい提案しなくてよかった……。
……いきなりダイエット計画に参加せてしまった、か。
突然俺をダイエット計画に組み込んだことを、伊江里さんなりに謝ってくれたってことかね?
というか、マジでなんで俺を誘ったんだ……って体形か。
元から細身の三人だし、近くに目に見えてダイエット効果が出そうなサンプルとしての手頃なモルモットが欲しかったってところだろうか。
まぁ何でもいい。
今まで手の届かないところにいたクラスの一軍、伊江里クロワさんに藤浪桃世さん、西崎華さんとお話が出来る立場になれただけで、俺には充分ありがたいことだしな。
マンションに帰り、お風呂。
一応軽くストレッチなどをして、就寝。
「って布団から甘い香りが……うーん、どうしようか……」
自室のベッドで寝ようとしたが、相変わらず伊江里クロワさんが寝た残り香、甘い香りがする。
ここで寝たら、ずっと頭に伊江里さんの顔が浮かんでしまう。
伊江里さんを抱けるイケメンは、こういう香りを感じながらするのか……って俺は何を考えているんだ。
「ボッス」
よく分からんが、愛犬のボスが俺のベッドで寝て、飼い主の俺は居間のソファーで寝ることに。
ボスは小学校の時、伊江里さんに懐いていたからな、彼女の香りがするベッドが嬉しいんだろう。
俺はダメだ。そこで寝たら、伊江里さんの顔が浮かんで興奮して寝れない。
今日の別れ際、着物の裾をめくりながら走る伊江里さんの長い足、白くて綺麗だったなぁ……って、ほらこれだ。
一か月のダイエット計画を共に過ごす大事なメンバーなんだぞ、煩悩退散!
……でもさっき、ダイエット計画を乗り越えたら何でもしてくれるって……だめだ、伊江里さんが頭から離れない。
よし、明日の朝、罰として早起きして公園を走るぞ、いや、歩くぞ。
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影木とふ




