DAY 1 俺のワガママボディで世界が変わった日
16歳 175㎝ 80㎏ ──さてこの数字を見て、どういう印象をお持ちだろうか。
ああ、もちろん運動は苦手で筋肉なんて無い。
太っ……いや、いわゆる俺はわがままマシュマロ体系なのだが、日常生活で特に困ったこともないし、このままでいいのだろう──そう思っていた。
まさかこの見た目のせいで、俺の人生が大きく変化することになるとか、誰が予想しただろうか──
「お昼ー! みんなご飯食べよー!」
「桃世はいつも元気ね、ふふ」
「声デケェんだって、桃世は」
春、俺は家の近くの高校に進学。
お昼の時間になり、みんな各々お弁当やら買って来たパン等を広げ始める。
俺は自作のお弁当。
早起きをし、小さめのハンバーグに豚の生姜焼き、照り焼きチキンに厚焼き卵を作ってきたのだ。
見ろ、この光り輝くお弁当を。
日本の男子高校生の全ての夢が詰まっている、そう言っても過言ではないだろう。
カロリー? そういう萎えるワードはやめてくれ。
人間、食わねば生きていけないのだ。
肉、そう、人間肉さえ食っていれば、幸せになれるのである。
教室の窓側では、イケメンや美女が集まり、楽しそうにお昼を満喫しているが、それに入れない自分が悲しいとか、微塵も思ってはいない。
肉、そう肉は人間の全てのマイナス感情を消し去ってくれるのだから。
「美山ー、今日も自分で作ってきたのかよ」
廊下側の一番後ろの席が俺なのだが、その前の空いた席にニヤニヤ顔の男が座る。
「波多野か。一人暮らしなんだから当たり前だろ。お前は作ってくれる人がいるだけありがたいと思えよ」
眩しいイケメン美女軍団に対し、影の存在である俺と、親友の波多野悠一。
こいつ、見た目は普通だが、痩せてる分だけ俺より女性の印象は良いだろうな。
羨まし……くはない。
俺は肉さえ食えればいいのだ。
「そうかぁ? そりゃあありがたいけどよ、うちのオカン、最近ヨーグルトにハマっててよ、隠し味とか言って何にでもヨーグルト使ってきて飽き飽きだぜ……。それより、窓側は華やかだよなぁ」
ヨーグルト? あんなモン、なんの腹の足しにもならなくねぇか?
健康な身体を目指すなら必要だろうが、やっぱ男子高校生には肉だろ、肉。
「窓側? ああ、クラスの一軍さんたちの集まりか。ま、俺たちには関係のない世界だ。テレビとかで、アイドルを見ていると思えばいいんじゃねぇ?」
なんかうちのクラス、やけにイケメンとか多いんだよな。
しかも野球部エース候補に、サッカーアンダー18所属とか見た目良くてスポーツ出来るとか、もう勝ち組だろ。
女子もお綺麗な人が多いぞ。
まぁワガママボディの俺には何の接点もないから、本当にテレビやネットの向こうにいるアイドルでも見ている感覚。
せめて「クラス内、推しアイドル」でも作ってみるか?
まあキモいな。自覚も、ある。
ええと、クラスで一番男子人気が高いのが「伊江里クロワ」さんだろうか。
美しい金髪の女性で、染めているわけではなく、地毛が金髪。
お母さんがアメリカの人なので、血筋、なのだろうか。
そしてこの女性がとんでもヤンキー気質。
正直怖いので、近寄りたくない。
一応子供の頃から知っているが、小学校のころはこんなにヤンキーじゃなかったんだがなぁ。
ちなみに俺とは真逆の意味の、出るとこ出てるすっごいボディをお持ちなので、男子たちの視線が毎日熱い。
そして隣にいる元気っ子「藤浪桃世」さんは、クラスのムードメーカー。
ポニーテールが似合うスポーツ女子で、毎日うるさいほど元気。
可愛い系アイドルって感じ。
声もよく通る声で、大きい。
もう一人、ロングヘアーの女性「西崎華」さん。
おしとやかで、いつも冷静。
和風美人と言えば分かりやすいだろうか。
本を読んでいる姿は、美しい、の一言。
その三人がこのクラスの中心的人物で、彼女たちを狙っているであろうイケメンたちが囲っている図、が毎日教室で見られる風景。
まぁ、動画配信の恋愛ゲームを間近で見ている、と思えばいいだろうか。
俺とは別世界の生き物のお話だ。
さてお昼も食べ終わり、明日は土曜日でお休み、夕飯はチーズハンバーグに焼肉……そうだな、最後はヘルシーに焼き鳥でいいか、と思いながらトイレへ。
お昼休みで賑わう廊下を歩いていくと、男子トイレ付近の階段で女子三人が座り、楽しそうに会話をしている。
あれ、伊江里さんに藤浪さんに西崎さんだ。
なんか雑誌を囲んで楽しそうだな。
美しいなぁ、携帯端末で写真を撮りたいぐらい、絵になる風景だ。
ま、俺には関係ない。
勝手に撮ったら犯罪だし、トイレトイレ……
「おいお前」
……ん? なんだ?
女性に呼ばれてるが……まぁ俺ではないだろう。
「無視すんな真ん丸体系。お前だよお前」
真ん丸体系……?
それって、俺である可能性が急激にアップするワードじゃあないか。
いや、俺はぽっちゃりであって真ん丸ではない。だから別人……
「美山進太、お前、今日から私たちの物だからな」
ロックオン、フルネームきたぁ……ってよりによってヤンキー女子、伊江里クロワさんかぁ……。
名前を呼ばれて振り向くと、金髪ヤンキー女子、伊江里クロワさんが怖い顔で俺を睨んできている。
な、何事……あ、もしかしてカツアゲとか……?
お、お金なんて、毎日の肉で消えて持っていないですって……
「な、何……い、伊江里さん……」
「……ぁあ? 伊江里さんだぁ? てめぇ……」
え、なんかすっげぇ怒っていらっしゃるぅ!
名前呼んだのを怒っている?
伊江里クロワさんを、伊江里さん以外どう呼べばいいの……ああ、俺とかいう三軍以下のワガママボディボーイが気安く呼んだから怒っているのか……それならまぁ。
「どしたのクロワー。なんか怒ってる? 美山っちと仲悪いの? って言いにくいなぁ、ミヤマって」
「……もしかして、彼で試すの? 確かにうってつけの人材だけど……このダイエット、結構苛烈よ?」
藤浪さんと西崎さんが、不思議そうに俺を見てくる。
うってつけの人材? 苛烈ダイエット?
えっと、出来ましたらホラ、向こうにいる細身イケメンたちがあなたたちを狙っていますので、あちらと仲良くしていただけたら……
「うっせぇな、コイツ以外に適任者はいないだろ。やるったらやるんだよ。ちょっと来い美山進太」
「え、あ、俺トイレ……!」
イラっとした顔の伊江里さんが俺の胸ぐらをつかみ、階段奥の倉庫部屋に連れ込まれる。
こっわ、何されるの、俺……
古くなった机とか、三角ポールがたくさん置かれている、狭い倉庫。
え、ここ、勝手に入っていいのか?
逃げようにも、伊江里さんがドアの前に仁王立ちで退路無し。
……ああ、もうだめだ、さようなら、俺の肉人生……
「脱げ、美山進太」
「え……脱……?」
狭い倉庫、三人の美人さんに囲まれた状況。
よくある異世界ものだとハーレム展開なんだろうけど、現実はそう甘くはないよなぁ……
もう終わりだ……明日食べる予定だった肉たちを思い浮かべ涙を流していたら、伊江里さんが謎の言葉を発した。
「服を全部脱げ、美山進太」
え、服を脱げって……追いはぎ系カツアゲなの……?
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影木とふ