傍観
「オイ! 五郎、サボってるんじゃねー! サッサと積み荷を貨物室に運び込め。
一郎! テメェもチャント監督してろ、分かったか?」
「モウシワケアリマセン」
私こと一郎も五郎もアンドロイド。
此の船、高橋運送のたった1隻の輸送船「高橋」の乗組員は、今私たちを怒鳴りつけた船長と船長の息子で、気持ちよくなる薬の飲み過ぎで何時も夢見がちな甲板長の2人に、私や五郎のようなアンドロイドが10体。
私たち、船内清掃を命じられている十郎を除く9体のアンドロイドは、積み荷や乗員の食料などの積み込みを急ぐ。
積み込み作業の終了を船長に報告すると、船は慌ただしく出港の準備を始めた。
操舵室で船長の補佐をしていた十郎によれば、私たちが今いる惑星東京に宇宙嵐が近寄って来ているらしい。
船長は宇宙嵐が来る前に出港を目論んでいるのだろう。
宇宙港の管制官に出航する事を告げ、輸送船「高橋」は惑星東京の地表から飛び立ち成層圏を抜け宇宙に飛び出る。
大至急準備を整え宇宙嵐が来る前に飛び立った筈だったが、輸送船「高橋」は宇宙嵐に捕らえられモミクチャに振り回された挙句に、正規の航路を大きく外れた場所に放り出された。
その際、船の立体羅針盤と通信機器などが故障する。
金に汚い船長が運航する此の船に救難カプセルなんて物は無い。
そんな物を載せるスペースがあるのなら、その分の貨物を載せた方がマシだと言うのが船長の考え。
「オイ、買っておくように言っておいた立体羅針盤は何処に置いてあるんだ?」
船長が息子の甲板長に予備の立体羅針盤を用意するよう命じていたらしい。
「お父さん、ウヘヘ、コンパスなんていらないんだよ。
円を描くなら画鋲と糸に鉛筆で十分なんらよ」
船長に乗船中に薬の服用は止めるように言われていたにもかかわらず、服用してラリパッパな甲板長が返事を返した。
「円を描くコンパスじゃ無い、立体羅針盤は何処に置いてあるんだって聞いているんだ」
「ん? 何それ? そんな物、買って無いよ、ウヘヘ」
「それじゃ、渡した金はどうしたんだ?」
「あのお金でねー、たくさーんお薬が買えたんだよ、ウヘヘ」
「馬鹿野郎! 立体羅針盤が無いと帰れないんだぞ! どうするんだー!
あ、お前たちの中に立体羅針盤か通信機器を直せる奴はいないか?」
船長がすがるように私たちに問いかけてくる。
船長と甲板長の会話が始まったとき私たちアンドロイドも、高速通信で互いに会話を行っていた。
「リッタイラシンバンクライナラ、ナオセルヨ」
「ヤメトケ、ドウセナオシテモ、ホウシュウハカワラナイ」
「アレダケコキツカッテオイテ、ホウシュウハ、イチバンヤスイキカイユダケダカラナ」
「ソウソウ、センチョウニカワレテ、ジュウネンイジョウタツガ、イチドモオーバーホールシテモラエテナイカラナ」
オーバーホールさせて貰えないだけで無い、故障したら空港で粗大ごみに出す金が惜しいと、電子頭脳を焼き切って宇宙空間に不法投棄されるのだ。
「ボウカンシテヨウヨ、オレ、デドコロヲセンサクシナイシ、ウリテガアンドロイドデモエイリアンデモカマワズニ、コウニュウシテクレル、バッタヤシッテルカラ」
「ソウダナ、ウマクスレバ、サンカゲツホドデウリニイケルダロウカラナ、ボウカンシヨウ」
だから船長にはこう答える。
「モウシワケアリマセン、ダレモセイミツキキノシュウフクキノウヲ、シュウトクシテイマセン」
私の返事を聞き船長は、ラリパッパな息子の脇に崩れ落ちるように膝まづいて頭を抱え泣き始める。
私たちアンドロイドは、そんな船長の姿を何時までも傍観し続けるのであった。