静寂の転換
初めて、リカはどう返事をすればいいのか分からなかった。
彼女は、自分が何気なく言ったことを覚えている人に慣れていなかった――ましてや、彼のような人に。
高橋蓮は、ただの静かな席の隣人のはずだった。気にする必要のない存在。ただのクラスメート。
でも、彼はそんなに簡単に無視できる存在ではなかった。
彼女は、彼が何か言い足すと思っていた――ぎこちない説明とか、話題を逸らすような一言とか――何でも。
けれど、蓮はすでにノートへと視線を戻し、それ以上会話を続けるつもりはないようだった。
チャイムが鳴った。
リカは軽く息を吐き、その瞬間を気にせず、いつもの日常に戻った。
数日が、静かに流れていった。
「消しゴム取って」数学の時間に彼女は小さく言った。
蓮は視線を上げることなく、それを滑らせた。「はい。」
彼が自分より先にノートを取り終えると、彼はそれをほんの少しリカの方にずらした。
もし彼女が何か書き漏らしていたら、見られるように。
リカは「ありがとう」と言わなかった。
そして、彼もそれを求める素振りすら見せなかった。
相変わらずだった。
無駄な会話も、余計な気遣いもない。
それなのに、何かが違った。
何が違うのかは分からなかった。
たぶん、それは彼がもう決して目を合わせなくなったこと――以前も多くはなかったが、今では全くない。
たぶん、彼がいつもより少しだけ早く教室を出て行くこと。
たぶん、昼休みにまだ隣に座っているのに、微塵もこちらに向かおうとしないこと。
大げさな変化ではなかった。
目立つものでもなかった。
でも、二人の間のバランスは変わっていた――あまりにも微妙で、もしかしたら自分の思い込みかもしれない。
気にしないふりをした。
どうでもいいと思い込もうとした。
それなのに、苛立ちは消えなかった。
そして、彼にぶつかった。
⸻
次の章の予告
廊下は休み時間のたびに人で溢れ、次の授業へ急ぐ生徒たちが押し合いながら進んでいた。
リカは友達と話しながら歩いていた。半ば気を取られながら角を曲がり――
そして、誰かと正面衝突した。
本が手から滑りかける。
なんとか持ち直し、顔を上げて睨んだ。
「ちゃんと前見て歩きなさいよ!」
苛立ちが一瞬で湧き上がる。
しかし、ぶつかった相手を見た瞬間、さらに不快感が募った。
高橋蓮。
彼は、無言だった。表情一つ変えなかった。
その反応が、なぜか余計にイラつかせた。
彼は何も言わなかった。何も反応しなかった。
不機嫌な顔すら見せなかった。
ただ、ほんの一瞬の間の後、静かに横へ避け、そのまま通り過ぎた。
その瞬間、リカは認めたくなかった。
自分の中でねじれるようなこの苛立ちが、ただの衝突のせいではないことを。