ありふれた惨劇
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──ありふれた惨劇
マイク・フォースを乗せたパワード・リフト機は、いつものようにドローンでとらえたダークエルフたちを襲撃した。
ダークエルフたちのキャンプとして立ち並ぶテントに向けて、口径70ミリロケット弾と口径7.62ミリガトリングガンが火を噴く。
ロケット弾の弾頭はサーモバリック弾で、地上が炎に飲まれて行った。
『ドードー・ゼロ・ワンよりマイク・リード。地上掃射完了だ。降下を始めるか?』
「ああ。降下開始だ、紳士諸君」
いつものように同じ手順でマイク・フォースが地上に降下していく。口径12.7ミリの電磁ライフルを装備した生体機械化兵たちが地面に降下し、すぐさま戦闘態勢に入る。
「皆殺しだ」
八神も地上に降下し、電磁ライフルの光学照準器を覗き込み、炎に包まれたキャンプから逃げてくるダークエルフたちとの交戦を開始した。
「冒涜者たちだ!」
「これ以上殺させるな! 応戦しろ!」
このキャンプには一応武装した戦士たちがいたようであり、弓矢や魔術で反撃してきた。それに対してマイク・フォースは木々を遮蔽物として隠れながら射撃を繰り返す。
「マイク・ツー。熱光学迷彩を使用して側面に回り込め」
「了解です、マイク・リード」
八神の指示で数名の生体機械化兵が熱光学迷彩を起動して、密かにダークエルフたちの側面へと回り込んでいく。
熱光学迷彩は昼間でも効果を発揮する。ダークエルフたちには音響センサーや生体電気センサーがないため、彼らを捉えることは不可能だ。
『マイク・ツー、配置に就きました』
「派手にやってくれ」
『了解』
回り込んだ生体機械化兵たちはグレネードランチャーと無反動砲、そして手榴弾を使うことにした。
まずは口径40ミリのグレネード弾がアドオン式グレネードランチャーから放たれる。それはAIによって制御されており、グレネード弾に内蔵されたセンサーがダークエルフたちの位置を把握し、もっとも加害半径を発揮する位置で炸裂。
「わああ────」
サーモバリック弾のそれが炸裂し、炎が大きく広がるとダークエルフたちを衝撃波が襲った。ダークエルフたちは爆風に薙ぎ払われ、死んでいく。
「どこだ!? どこから攻撃を受けた!」
「わ、分からない!」
ダークエルフたちは熱光学迷彩で姿を隠した生体機械化兵たちを見つけられず、混乱している。
さらにそこに口径84ミリの無反動砲が砲撃を実施。やはりサーモバリック弾のそれが炸裂すると再びダークエルフたちが打撃を受けていく。
「手榴弾!」
一斉に手榴弾も投擲され、一方的な戦闘は続き、虐殺は続く。
「撤退だ! ここは退くんだ!」
「負傷者を担げ! 急げ、急げ!」
ついにダークエルフたちは撤退を決意。殿を務める部隊がマイク・フォースと交戦しながら時間を稼ぎ、そのうちに他の部隊が森の中などに下がっていく。
「八神少佐。敵は撤退を始めました」
「近衛第2猟兵連隊は到着したか?」
「はい。先ほど到着したと連絡が」
「結構だ。それでは鏖殺といこう」
近衛第2猟兵連隊は装甲車で機動して包囲を開始し、それに合わせてマイク・フォースも行動する。
現状、このキャンプの周りの数キロ離れた場所をぐるりと近衛第2猟兵連隊が包囲している。彼らは銃火器と通信機材、そして多くのドローンを備えており、歩兵ひとりが受け持つ地域は、かなりの広さとなる。
しかし、それでも敵を逃がすことがないように歩兵たちは連携しながら行動する。装甲車を盾にできる位置につき、ダークエルフへの包囲を狭め始めた。
ダークエルフたちは逃げようとするが、どの方向にも重武装の敵がいる。
「女子供を先に逃がさなければ……」
「だが、どの方向も敵だらけだ! 逃げられない!」
四方に斥候を送ったダークエルフたちだが、逃げ場がないことを知り、生き残ったものたちの中に絶望感が漂う。
ダークエルフたちにも近衛第2猟兵連隊の残忍さは聞こえていた。
太平洋保安公司があくまで仕事としてダークエルフたちを殺害するのを違って、近衛第2猟兵連隊のエルフたちはダークエルフたちを憎んでいる。彼らはエルディリアを分裂させようとする反逆者だと教えられているからだ。
彼らはダークエルフたちを捕えれば面白半分に嬲り殺す。女子供であれば辱められてから殺される。尋問と称して拷問することも多々ある。
「連中に捕まりたくない」
女子供はそう訴えた。
「このまま生きて虜囚の身となれば辱めは避けられない。ここは覚悟を決めなければ」
「女子供に死ねと言うのか……!?」
ミリリエスの部族の占い師が告げるのに戦士たちが思わず叫ぶ。
「これが慈悲なのだ」
「くっ……!」
この戦いで女子供を守れなかったの自分たちのせい。そうであるが故に戦士たちも強くは出れなかった。
「さあ、これを飲みなさい。気持ちが楽になる」
女子供たちには医師たちが調合した毒薬が渡され、彼女たちは眠るように安らかに逝った。戦士たちはその様子を見て、涙を流すしかなかった。
そうしているあいだにも間にも近衛第2猟兵連隊は包囲網を狭めている。マイク・フォースは彼らに合流し、ときおり支援のために戦闘に参加した。
近衛第2猟兵連隊の装備するストライカー装甲車は地球では旧式化し、退役したものを中古市場で購入したものだ。
旧式とは言えどメインウェポンが弓矢でしかないダークエルフたちには手も足も出ないものだ。機関銃の攻撃を弾くぐらいなのだから当然だと言えよう。
「いたぞ、ダークエルフどもだ!」
「撃て、撃て!」
近衛第2猟兵連隊はいくどもの実戦を経験したという点においては、練度は向上している。彼らは生き延び、生き延びていく手段と敵を撃破する手段を学んだ。
だが、流石に太平洋保安公司の精鋭たちと比べると戦い方に緻密さが欠ける。とにかく敵に向けて撃ちまくる。また、とりあえず装甲車を盾にするなど、戦術性にも幅が見られない。
だが、大井の求める目標を達成するにはこれで十分。民兵に過ぎないダークエルフたちを殺すのに特殊作戦部隊のオペレーター並みの練度はいらない。
そう、特殊作戦部隊のオペレーターが精密な手術を行うメスだとすれば、近衛第2猟兵連隊は野戦病院で腐敗した手足を切り落とすのこぎりだ。
のこぎりはじわじわと切断を始め、ダークエルフたちは自らの血の海に沈んでいく。
「スーリオン大佐。このまま畳んでしまおう」
「ああ。しかし、今回は捕虜がほしいな。連中の拠点を我々はまだ見つけていない。そうだろう?」
「それはそうだが、ここにいるような雑魚が情報を持っているとは思えない」
「確かめてみなければ分かるまい」
「じゃあ、好きにしてくれ」
このエルディリアでは大井が来る以前から反体制派を拷問して、処刑している。スーリオン大佐もこれまで何人もの反体制派や失脚した政治家たちを拷問しており、彼にはサディスティックな欲望が芽生えていた。
このキャンプにいたダークエルフたちが懸命に戦ったが、結局は太平洋保安公司と近衛第2猟兵連隊に勝利することはできなかった。
彼らは蹂躙され、虐殺され、生き残りは痛めつけられて捕虜にされた。
捕虜になったダークエルフの辿る運命は拷問に次ぐ拷問だ。
スーリオン大佐自らが指揮して拷問が行われ、聖地解放運動や共和国陸軍の拠点を自白させようと、あらゆる方法でダークエルフたちは拷問されて行く。爪を剥がされるなどということは序の口だ。
しかし、太平洋保安公司はこの尋問に期待していなかった。彼らは彼らで情報部が動き、聖地解放運動と共和国陸軍の拠点を探していた。
そんな彼らの予想を裏切るようにスーリオン大佐は拷問である情報を得た。
「やつらが補給を受けている場所が分かった」
「本当か?」
スーリオン大佐の言葉に太平洋保安公司の軍事コンサルタントが驚愕する。
「ああ。やつらは定期的に南東部の森林地帯で聖地解放運動と取引している。我々はそこを叩くべきだろう」
スーリオン大佐はそう告げた。
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