サーチ&デストロイ
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──サーチ&デストロイ
フィリアン・カールには広大な自然が広がる。
どこまでも広い平原、どこまでも広い森林、どこまでも広い山岳地帯。
それら全てがエルディリア軍にとっての困難につながっている。
「全土占領はまず不可能だ」
太平洋保安公司の軍事コンサルタントがスーリオン大佐に告げる。
「敵は数万人以上で、この馬鹿みたいに広い自然の中に潜んでいる。対するこちらは3個連隊約1万人に過ぎない。全土占領など目指していたら、戦争は数十年経っても終わりはしないだろう」
敵の数は膨大で、制圧すべき土地は広い。それだけエルディリア軍にとっては困難な状況だと言わざるを得なかった。
「では、どのようにすべきだというのだ?」
「敵戦力の漸減を目的とした索敵殺害作戦だ。我々は以下の方針で動くことになる」
スーリオン大佐の質問に軍事コンサルタントは説明を始める。
「ドローンがフィリアン・カールにて敵の捜索を実施する。これによって掴んだ敵の位置に向けてまず空中機動部隊が進出し、敵を拘束する」
第一段階。ドローンによる索敵と迅速な機動が売りの空中機動部隊による攻撃。
「続いて拘束した敵を近衛第2猟兵連隊を中心とした地上部隊で包囲し、そのまま殲滅する。敵を逃がさず殲滅することで、敵に人的被害を強い、戦争継続能力に打撃を与えることが目的だ」
第二段階。装甲車を含む地上部隊による包囲殲滅。
「以上が我々の方針だ。何か質問は?」
「問題はなさそうだ。しかし、空中機動部隊というのはどの部隊の担当だ?」
軍人コンサルタントの説明にスーリオン大佐が尋ねた。
「太平洋保安公司側で手配する。こっちも大規模な再編が行われるところだ」
軍事コンサルタントが言うように太平洋保安公司も再編成が行われていた。
これまでの警備の規模は川内が指揮する1個中隊強で、それを補助するためにレッドファング・カンパニーが配置されていた。
それが警備部隊とは別に新たに1個中隊とレッドファング・カンパニーの志願者からなる、ダークエルフへの積極的な攻撃のための部隊が編成されることになったのだ。それはマイク・フォースと呼称される。
その指揮官が作戦決定の3日後に、エルディリアに赴任してきた。
「八神蓮だ。太平洋保安公司のマイク・フォース指揮官」
八神と名乗った男は髭などを綺麗に剃った清潔感のある顔立ちに、ソフトモヒカンの頭をした男だった。しかし、特筆すべきはそのような点ではないだろう。
彼の四肢と脊髄は人工のものであった。つまりは生体機械化兵である。人体の一部を機械化したサイボーグの兵士だ。
彼は元日本情報軍少佐であり特殊作戦部隊のオペレーターであった。
「ようこそ、八神少佐、エルディリアへ」
そう言って出迎えるのはヴァンデクリフトと司馬だ。
「ああ。厄介な問題が起きているにしては美しい景色だ」
八神はそう言ってフィリアン・カールの景色を見渡した。
「あなたは対反乱作戦の専門家だと聞いている。期待していいのか?」
「確かに私のキャリアは対反乱作戦のそれが多い。その上で言わせてもらえば、これまでの経緯はいささか現地の人間を侮っていたと思える」
「ほう」
八神がこれまでの大井のやってきたことを否定するのに司馬が反応。
「対反乱作戦の基本は現地住民と反乱勢力の切り離しだ。住民にはアメを与えて宥め、反乱勢力ではなく自分たちの側につくように誘導する。それができれば、敵戦力を戦わずして減じられる」
「我々も病院や学校を作るなどしてきたが?」
「型通りのやり方ではだめだ。現地の住民に合った形の支援が必要だ。彼らは遊牧民なのにひとつの場所に住まわせるというのは、明らかな愚策であろう」
「なるほど。では、どのようにすべきであったと?」
「彼らの経済に乗っかる形での経済支援などを行うべきだったと思う。彼らにとって貴重な品を物々交換で提供する。甘味やタバコ、アルコールといったものは、彼らにとって病院などより喜ばれただろう」
「……一理あるな」
「そうだろう。だが、ここまでこじれてはもう不可能だ」
八神が肩をすくめてそう言う。
「こうなっては相手に敬意を払い、皆殺しにするしかない」
「やれることは全てやってくれ、八神少佐。皆殺しにするなら徹底的に」
「分かった。できることをやろう。私のチームは?」
「間もなく到着する」
「了解」
八神が指揮する空中機動部隊マイク・フォースは混成部隊だ。
ひとつは八神同様の生体機械化兵からなるコントラクターたち1個小隊。
ひとつは太平洋保安公司の非生体機械化兵である精鋭コントラクターからなる1個小隊と中隊本部要員。
ひとつはレッドファング・カンパニーのワーウルフ族からなる1個小隊。
これらの部隊が組み合わされて、マイク・フォースは構築されていた。
「我々はドローンによる索敵に応じて行動する。しかし、諸君は疑問に思っているだろう。索敵殺害戦略はベトナムで失敗した作戦だ。どうしてそのような作戦を行うのか、と」
八神は部下たちを前にそう言う。
「理由は技術の進歩だ。ベトナム戦争の際には索敵というものが十分ではなかった。かつての技術ではベトナムの深い密林で、空から敵を探知することは難しかった。そうであるが故に偵察部隊がお互いに繰り出されていたのだ」
ベトナム戦争ではアメリカ陸軍特殊部隊群──グリーンベレーやオーストラリアSASなどの特殊作戦部隊が密林の中で敵を探すための偵察任務に就いていた。
しかし、太平洋保安公司が今回行う作戦では、偵察部隊は小規模だ。
「科学技術の進歩は空から地上のことはある程度見通せるまでになった。我々は神のように空からあらゆるものを把握し、そして仕留める」
八神はニッと笑ってそう宣言した。
「しかし、決して敵を侮ることはなかれ。敵は既に我々の仲間を殺している。科学技術は無敵の呪文じゃない。相手は殺そうと思えば我々を殺せるのだ。その点に十分に注意し、相手に敬意を払いたまえ。そして、皆殺しにするんだ」
打って変わって厳しい表情で八神はそう忠告した。
「では、諸君。狩りを始めよう」
それから作戦は開始された。
フィリアン・カール上空をドローンが飛び交い、索敵を行う。そして、得られた情報に従ってマイク・フォースが出動。
ダークエルフたちは自分たちの居場所が気づかれると当然ながら反撃を試みる。矢を使い、魔術を使い、上空を飛行するパワード・リフト機への攻撃を目指す。
『ドードー・ゼロ・ツー。攻撃を受けた。反撃する』
パワード・リフト機はそれに対してロケット弾や航空爆弾を浴びせたのちに、マイク・フォース地上部隊を降下させ、マイク・フォースはダークエルフたちの足止めを行う。
生体機械化兵、空挺部隊や特殊作戦部隊上がりの精鋭コントラクター、そしてワーウルフ族の3種の兵が混じった部隊が、ダークエルフたちに向けて牙を剥いた。
「目標視認。交戦中の敵は1個中隊規模!」
「皆殺しだ」
生体機械化兵たちは太平洋保安公司の標準装備である口径5.56ミリの自動小銃ではなく、口径12.7ミリの大口径電磁ライフルを使用している。
「うわあ────」
「ひっ! な、何が……!?」
電気の弾ける音とともに発射された大口径ライフル弾は、命中すれば人体を消滅させる威力がある。命中した部位が蒸発したかのように消え、赤い血の霧が発生し、グロテスクな死体が出来上がるのだ。
それから近衛第2猟兵連隊が現地を完全に包囲し、殲滅戦が開始される。
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