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強制排除執行

……………………


 ──強制排除執行



 フィリアン・カール王室属領におけるエコー・ワン鉱山の開発は、スケジュール通りとはいかないものの着実に進んでいた。


 エコー・ワン鉱山とゲートを結ぶ大きな道路が完成し、鉱山開発に必要な重機がその道路をトレーラーで移動していく。その運び込まれた重機によってフィリアン・カールのレアアース鉱山は掘られ始めた。


「ふむ。数字では分かっていたが、これは地球のそれと比較しても大規模なものになりそうだな」


「ええ。ごっそりと掘ることになりそうです」


 エコー・ワン鉱山は露天掘りであり、それは同じく露天掘りの鉱山であるロシアのサハ共和国にあるウダーチナヤ・パイプに似た外見をしている。


 これは地表に円を描くようにして穴を掘り進めるのだが、その円の中にはダークエルフたちの聖地である霊山も含まれていた。


「しかし、結局は聖地を含みますね」


 石井の部下が石井にそういう。


「構わん。エルディリアからは遠慮なくやれと言われているし、連中の治安部隊も展開している。我々は黙々と仕事を進めるのみだ」


「了解」


 エコー・ワン鉱山の周囲は軍事要塞のようにヘスコ防壁の壁に覆われ、監視哨なども設置されている。さらには周囲を太平洋保安公司のコントラクターがパトロールし、ドローンも絶えず上空からの視点を与えていた。


 そして、その基地のようなエコー・ワン鉱山は聖地に手を伸ばしつつあった。


「聖地は渡さない!」


「ここは神の土地だ! 失せろ、冒涜者たち!」


 霊山には座り込みを行っているダークエルフたちが大勢いる。


 彼らに対応するのはやはり近衛第2猟兵連隊だ。


「次々に羽虫のように湧きやがって、ダークエルフどもめ」


「スーリオン大佐。予定通り、低致死兵器での制圧を頼みたい」


 スーリオン大佐が、エコー・ワン鉱山の開発が進む地点に対して霊山を囲むように座り込むダークエルフたちを見て言うのに、太平洋保安公司の軍事コンサルタントがそういった。


「いいや。それはもはや無理だ」


「何だと?」


「アルフヘイムで動きがあった。ダークエルフたちが軍から脱走し、このフィリアン・カールに逃げ込んだとの情報だ。それを受けて女王陛下は我々軍に断固とした対応を取るように命じられた」


 首都アルフヘイム近郊のヴァリエンドール駐屯地から脱走したダークエルフたちは、あろうことか軍法会議で有罪が下ったアイナリンド大佐をも脱走させ、このフィリアン・カールに逃げ込んだ。


 このことに女王ガラドミアは激怒。ダークエルフたちに強い処罰を下すように命じた。その命令はスーリオン大佐たち陸軍に伝わっている。


「捕虜にしてから収容するなり、尋問するなり、処刑するなりすればいいだろう」


「それでは我々は甘いとみられるのだ。最初から殺しに来ないことで、舐められている。その表れが、あの座り込みだろう。忌々しいあの連中に思い知らせてやらなければ」


「クソ。分かった。好きにしてくれ」


 太平洋保安公司の軍事コンサルタントは説得を諦めてしまい、ことはスーリオン大佐が下す命令にゆだねられた。


「実弾射撃を許可する。速やかにあの下らん山の周りにいる連中を仕留めろ。皆殺しだ。ひとりも生かしてここから逃がすな」


「了解です、大佐殿」


 ベルギー製の自動小銃や機関銃で武装した近衛第2猟兵連隊所属の歩兵が展開し、彼らが保有する日本製のピックアップトラックに重機関銃をマウントしたテクニカルも展開していった。


 さらに上空を再びクアッドロータードローンが飛行していく。


「あれを撃ち落とせ!」


 これまでと違うのは座り込んでいるダークエルフたちが必ずしも非武装ではないということだ。聖地という場所を守るためにダークエルフの一部は武装し、矢を空を飛ぶドローンに向けて放ち、さらには魔術で攻撃した。


 魔術で生じさせられた炎の矢はドローンに命中し、中国製の低価格ドローンを墜落させた。しかし、低価格なドローンなだけあって、近衛第2猟兵連隊にとっては被害のうちにも入らないほどのものだった。


「やったぞ! 連中の使い魔を落としてやった!」


「使い魔とともに去れ、よそ者! 聖地は絶対に渡さないぞ!」


 だが、初めて得た相手への損害にダークエルフたちが歓喜の声を上げて喜ぶ。


「忌々しいクソ野郎どもめ。思いしらせてやる」


「第1大隊、戦闘準備整いました、大佐殿」


「よろしい。射撃自由だ。殺し尽くせ!」


 スーリオン大佐の命令で虐殺が始まった。


「射撃開始、射撃開始!」


 銃火器が一斉に火を噴き、銃声が鳴り響く。


「うわああ────」


「クソ! やつら、殺しに来たぞ!」


 重機関銃の大口径弾が人体を容易にバラバラにし、無数の銃弾がダークエルフたちをハチの巣にしていく。


 流血。流血。流血。


 聖地である霊山の周りに真っ赤な血がじわりと地面広がっていき、血の臭いと硝煙の臭いが混じり、戦場独特の臭いへと変わる。


「反撃しろ! 反撃だ!」


「矢を放て!」


 ダークエルフたちは弓を構え、矢を近衛第2猟兵連隊に向けて放つ。


 矢の一部はダークエルフの魔術師たちが風の魔法をかけたことで加速し、弾丸のような速さで近衛第2猟兵連隊の将兵に襲い掛かる。


「ぐわっ!」


「負傷者だ! 衛生兵、処置を!」


 これまでは一方的だった戦闘で初めて近衛第2猟兵連隊側に負傷者が出始めた。矢の刺さった負傷者が後方に運ばれていき、ダークエルフたちの攻撃を潰すために銃火がより激しくなっていく。


「ライオットシールドを前に出せ!」


「了解!」


 スーリオン大佐の命令で前方に出た強化ポリカーボネート製のライオットシールドは通常の矢ならば弾き、風の魔法で強化された矢でも人的損害は抑えた。


「行け! テクニカルで押しつぶせ!」


 さらにテクニカルが銃撃を行いながら前進し、重機関銃の猛烈な射撃がダークエルフたちを蹂躙していった。


「前進、前進!」


 ライオットシールドで身を守りながら、近衛第2猟兵連隊の将兵が前進して、霊山に立て籠もるダークエルフたちを追い詰め始めた。


「いいぞ、いいぞ。迫撃砲も友軍を支援しろ!」


 スーリオン大佐が命じ、近衛第2猟兵連隊が装備している口径60ミリ軽迫撃砲も火を噴いた。砲弾がダークエルフたちに降り注ぎ、その様子はクアッドロータードローンのカメラによって確認される。


「敵は霊山の中に引きつつある。追撃すべきだ」


「了解した。こちらからも航空支援を行う」


 スーリオン大佐が主張するのに太平洋保安公司側が了解。彼はパワード・リフト機を飛ばして近衛第2猟兵連隊の霊山への進軍を支援することに。


 航空爆弾とロケット弾、対戦車ミサイルで武装したCOIN機仕様のパワード・リフト機が飛び立ち、霊山の上空をドローンとともに飛行する。


 その航空部隊に指示を出すのは太平洋保安公司のコントラクターだ。前線航空管制官(FAC)として同行する彼らが、レーザー照準器などを使って支援を要請する。


「前進、前進」


 近衛第2猟兵連隊は山岳戦の経験は少ないが、装備においてはダークエルフたちより圧倒的に勝っている。


 テクニカルが僅かに整備された巡礼のための道を進み、低空を飛行するドローンが待ち伏せに警戒してセンサーで周囲を索敵する。


「ふん。この山から完全に追い払ってくれるわ」


「ああ。そうしてくれると助かる」


 軍事コンサルタントは戦いを楽観視していた。


 地球の軍事技術はベトナム戦争の時代から飛躍的に発展している。


 各種ドローンが高度なセンサーで索敵するので、近距離での待ち伏せはまず不可能。ブービートラップの類も画像解析を得意とするAIによって探知される。


 近衛第2猟兵連隊はそのような技術に守られ、霊山における戦いに挑んだ。


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