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魔界の晩餐1

自分の為に用意されたであろうこの部屋は、ネイビーとオフホワイトであしらった落ち着いた雰囲気の部屋だ。

立派なドレッサーやテーブル、ソファなども置かれくつろげるようにしてある。



_本当に、一体何が起きているんだろう。夢じゃない・・んだよね。実感湧かないけど。



肩に食い込んだフォルノスの指の感触を思い出す。



「死んだと思ってたパパが生きてて・・しかも人間じゃなかった、なんて・・ハハ、そんなの」



口に出すと、更に実感が湧かない。目を閉じれば自分の家に帰れるんじゃないかと何度も目を閉じたり瞑ったりを繰り返し続けたが意味はなかった。



「ママ・・・」



母が死んだことすら認めたくないというのに。



_ママはパパの事何も教えてくれたこと無かった。私が赤ちゃんの時に死んじゃったのよって・・それっきりで。ずっとそう信じてたし・・。



「うーん・・全然理解出来ないー」



自分には似つかわしくない大きめのベッドをごろごろと行ったり来たりした。


転がっても答えは出るはずもないが。


コンコンコン


丁寧なノックが聞こえ、ドキッとしながらもセンジュは返事をした。




「はい」



「失礼を致します。お召替えのご用意が整いました」



「あ・・はい」



礼儀正しく魔界の女性が入ってきた。


耳が人間よりも長い。まるでおとぎ話に出てくるエルフだ。


そういえば四大魔将の4人も少し耳の先が尖っていた気がする。


魔族の証なのだろうか。


女性の方がやや耳先が長い様だ。


自分とは違う事で違和感しか覚えない。



_私の耳尖ってないけど・・本当にパパの子なのかなぁ・・。




「センジュ様の侍女に任命されました。リアと申します」



「あ・・センジュです。は、初めまして・・」



「何かございましたら、わたくしに何でもお申し付けくださいませ」



「ありがとうございます。よろしくお願いします」



深々とお辞儀をされ、つられてセンジュはお辞儀を返した。



「この後は魔王様と四大魔将様など魔界で選ばれし方たちとの晩餐会がございます」


「は、はい・・聞いてます」


「センジュ様は初めての会と思われますが、ごゆるりとお寛ぎくださいませ」


「が、頑張ります」



_とりあえず大人しくしてよう。そうしよう。




リアは柔らかにニコリと口角をあげ、センジュを浴槽に促した。




「ではこちらのドレスにお着がえの前に湯あみをどうぞ。こちらです」



「は、はい」



緊張しつつ素直に従う事にした。


人間じゃないというだけで、何が起こるか予測が出来ないという恐怖に支配された。


湯船を目の前にしたセンジュはほっと安堵のため息をついた。


漫画で見た様な血の池などでなく、いたって普通の湯船だった。少し薬草の様な香りがする。

温泉だろうか。


肩までしっかりと浸かり、目を閉じる。



「久しぶりの湯船・・気持ちいい」



3日前、母の事故を聞いてからずっと母につきっきりだった。


母は病院に運び込まれた時にはすでにこの世を去っていた。


交通事故により即死だと聞かされていた。


ショックで時が止まった状態だったセンジュに変わり、警察官が親戚に連絡をして親戚たちが葬儀など手配をしてくれたのだった。



「ママ・・・」



『センジュ・・・』



バシャッ



「ママ!?」



強く願った瞬間、母の声が聞こえた気がした。


立ち上がり振り向くと、リアがすぐに駆け付けた。



「センジュ様、いかがされましたか?」



「あ・・いえ・・ごめんなさい。なんでもない・・です」



_ママの声が聞こえた気がしたけど・・・気のせい・・だよね?




「あの・・もう出ます」



「かしこまりました」



センジュがそう言うと、リアはバスタオルで体を包んだ。



_ママ・・会いたいよ。


部屋に戻り、ドレッサーの前で髪を丁寧に解かしてもらう。



「あの・・自分でやります」



「いえいえ、これがわたくしの仕事ですから」



リアは慣れた手つきでセンジュの髪を解かした。



「綺麗な髪ですね。今日はドレスですので高く結いあげましょうか」



「あ、はい・・」




人に施されるのは美容院に行く時くらいだ。


緊張してリアをジッと見つめた。


するとリアはもの珍しそうに笑った。



「ふふ、どうされました?」



「あ、いえ・・その・・こういうの慣れてなくて」



「人間界の暮らしが長いとお伺いしました。慣れなくて当然ですわ。私も少し不思議です。あなた様は魔王様の姫君ですが、人間との御子と伺っております」


「あ・・」




_な、なるほど・・確かにパパが本当に私のパパなら私にも魔族の血が流れているということになる。魔族と人間とのハーフって事!?




「あの、魔界の人達は人間と何が違うんですか?パパみたいに瞬間移動したりとか・・何か力があるんですか?」



「ええ、多少なりとも我々は力を持っております。1人1人能力は違いますが。センジュ様はご自分の力をまだご覧になった事がないのですか?」



「ないです・・だからいまいちピンと来ないというか・・今だに信じられなくて」



「そうでらしたのですね。ですが、魔王様があなた様の存在を認めていらっしゃるのです。誰がなんと言おうと、あなた様は王女様ですわ。きっとそのうちにお目覚めになりますよ」



「はい・・」



_この人もパパを恐れている。どれだけの力を持っているんだろう。なんで力を持たない私を魔界に呼んだんだろう?パパは教えてくれるのかな?




何のために自分は呼ばれたのか、恐らく目的があるに違いない。


と心の何処かで憶測していた。


晩餐会の準備は滞りなく行われていた。もう間もなく会は開かれる。


魔界に君臨する魔王パパを始め、席には魔界屈指のそうそうたるメンバーが着席している。



「いやぁ、娘の晴れ姿楽しみだなあ」



と始まる前から魔王はほくほくと笑顔を零している。



「本当に、さぞお綺麗なのでしょうね。楽しみです」



と近くでにこやかに相槌をうつエレヴォス。


他のメンバーも小さく頷いた。



「お待たせいたしました。センジュ様のご到着です」




ザワ・・



と会場がどよめいた。



侍女に連れられてセンジュがゆっくりと広間に姿を現した。



「ほお・・」



と声を漏らしたのはアルヴァンだった。


当の本人は緊張で俯きながら歩いているが。


その場にいる魔界の者達はこぞってセンジュの姿に歓喜した。


父である魔王の隣に促され、様々な視線に怯えつつも着席した。



「あ、あの・・」



挙動不審に目をきょろきょろさせていると、魔王は突如センジュを抱きしめた。



「可愛い!私のセンジュ!!」



「わっ・・ちょっ・・」



_ひえええっ!皆見てるのにいいいっ




パチパチパチ・・・


とどこからともなく拍手が聞こえてきた。



「おめでとうございます。我が君、姫君」



「おめでとうございます」



いつの間にか大勢の拍手に囲まれていた。


どうやら歓迎されているらしい。


魔王の大切な愛娘の存在に皆喜んで拍手した。



「これは・・?」



「皆この時を祝福してくれているんだよ。私はアンジュしか妃を持たなかった。離れ離れだったけど、出会ってから17年間ずっとずっとアンジュだけを愛していたんだよ」


「え・・?」



近くに着席している四大魔将達もそれには頷いている。


恐らく魔界にもそれなりに器量の良い女性は沢山存在するだろう。


四大魔将達はセンジュの存在は知らされていなかったが、アンジュの存在は知っていた様だった。


魔王は頑なに魔界で伴侶を持つ事をしなかったのだった。



「だから、そのアンジュとの間に出来たお前を魔界に迎える事が出来て・・本当に嬉しいんだ」


「・・パ・・パパ」


「ずっと一緒に暮らしたかったんだ・・私の夢だった」



_本当に?本当にこの人は私のお父さんなの?パパなの?信じて・・いいの?



未だ確信が持てていない。戸惑いつつ魔王を見つめた。

しかし、その時センジュの瞳には心から喜んでいる魔王の笑顔が映り、ほんの少し受け入れた。


「魔界からお前達の事は見守っていたよ。姿を現さない事はアンジュとの約束だったから今まで逢えなかったけど。これからは、死んでしまったアンジュがいない今、お前を護れるのは私だけだろう?」



センジュの手を握る魔王の手は大きく、とても温かかった。



「パパ・・」



「うんうん、いつもパパと呼んで。魔界で一緒に生きて行こう。センジュ」



「ぅ・・うん」



センジュは素直に頷いた。


正直人間界に未練はない。


母以外、信用していなかったからだ。



_どうなるか不安もあるけど・・とりあえず素直にここにいてみよう。今は抗っても仕方ないよね。ね?ママ。



ほろりとセンジュの頬を涙が伝った。


寂しさを示す最後の涙だった。

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