パパだという人
「・・・・・・・・は?」
2人の間に異様な空気が流れた。
というのも、彼女・桜木千寿の父は生まれたころに亡くなっていると母に聞かされていたからだ。
「いやいや、私のパパはもう死んでて・・」
「いやいや、死んでないんだよねこれが」
「は・・い?」
センジュは首を横に傾げた。
しかし何処となく母が持っていた古びた父の写真に似ている気もする。
男はおもむろに母の引き出しからその写真を取り出すと懐かしそうに笑った。
まるで写真の場所を知っているかの様だった。
「うわ、懐かしい・・アンジュと出会ってから17年だったかな。時が経つのはあっという間だね」
「ママの名前・・」
「ああ、アンジュはね実は私の命を救ってくれたんだ。言わば命の恩人ってやつだ」
母の名前を出され、センジュは半信半疑で男をジッと見つめた。
「うんうん、お前はアンジュにそっくりだよ」
と、センジュの頭をポンとひと撫でして立ち上がる。それから男は母の遺影をジッと見つめた。
センジュは父だという男の背中に向けてボソリと呟いた。
「そ、そんな・・突然現れて・・私の父だなんて。信じられません・・到底・・」
「まあそうだよね」
突如体がわなわなと震えるのを感じた。胸の奥底から沸々と怒りが湧き上がった来た。
「それに・・生きていたならなんで・・今まで」
「うん・・・ごめんね。色々と事情があって」
「そんなの!!そんなの知らない!!どんな事情があれ・・ママは凄く・・大変そうだった・・う・・うぅ」
安易なその答えに思わず声を荒らげた。
一気にぼろぼろと涙が溢れ出す。
いつも笑顔を絶やさない母親の顔が何度も浮かび上がる。
自分の為に頑張ってくれている姿を見てきたのだ。
「なんで・・なんでママが死ななくちゃならなかったの!?なんでこうなっちゃうのっ」
泣き喚くセンジュを父と名乗る男は抱きしめた。
まるで親の様に。
「ごめんね・・ちゃんと話すから」
「うぁあああっ」
_私にとって、ママは一番大事な人だった。誰よりも大事な人だったんだ!!
学校で嫌な事があっても、ママさえいれば私は平気だったんだ!!
センジュは男の胸を借り、全力で泣き喚いた。
_ママに逢いたい!!ママのところへ行きたいよ!!
「ひっく・・ひ・・っ」
ようやくほとぼりが冷めた後、男はゆっくりとセンジュの肩を抱いた。
「落ち着いた?もう話しても大丈夫?」
「・・・」
落ち着きを取り戻し、冷静になったセンジュはこくりと素直に頷いた。
「っ!?」
思わずハッと目を見開いた。
センジュが男の顔を見上げると、男の瞳が金に染まっていたのだ。
_何?瞳が光って・・る?
「信じられないかもしれないけど・・こういう事なんだ」
「・・え?」
「私は・・人間じゃないってコト」
言いながら男はセンジュを抱き上げると、一瞬でその場から消え去った。